毎度お馴染み中外鉱業所を過ぎると、国有林の杉林となる。
ここから急に谷が狭くなり、道ばたに雪がうっすら積もり始めた。その雪が溶けた水か、はたまた木々から垂れる水か、路面が濡れている。気温は急に低くなったように感じられるが、それでも雪の解ける温度なのだろう。
時々きりきりっと登ったかと思うと、その後は斜度が緩くなってシフトアップすらできる程だったり、緩急のある登りが続くのが自転車乗りには助かる。その路上を濡らしていた程度だった水は、いつの間にか路上を流れていたり、時々シャーベット混じりになったりする程度に増えていた。
頭上の木々からは水が雨みたいに滴っている。のみならず、雪の塊がしょっちゅうどさっと落ちてくる。道ばたのしっとりした雪もどんどん増えてきていた。かなりのボタ雪だが、柔らかそうな雪が粉になって砕けるので、昨夜か昨日雪が降ったばかりだろう。きっと昨日は低温だったのが、今日は再び気温が上がりはじめて、雪がこんなに解け出しているのだ。<
杉林を抜けると辺りの谷間が拡がり、広葉樹林のつづら折れが終わると周囲の山々が見渡せるようになってきた。その山々に積もった雪と、着雪していない木々で、斜面が斑になっている。高い辺りに一直線に横切っているのは、船原峠からやってくる県道411だろう。その県道411の延長線が、自分の進行方向と何となく交わっている辺りが風早峠なのだ。
狭かった道が拡がり、牧場ゲートを過ぎると、間もなく11:45、風早峠に到着。路面には雪の塊がごろごろしているし、見渡す山々は斑ながらほぼ雪の世界と言っていい。交差点の脇、駿河湾に面してちょっとした展望場所があるが、生憎目を凝らさないと海岸も見えにくい位の微妙な霞の掛かり方だ。海の青さはわかるので、何と無く感動的な気もするが、ここは仁科峠へ足を進めよう。
風早峠から仁科峠へは10%程度のなかなかの激坂が続く。標高が上がったためか稜線近くの道に出たためか、風早峠から一気に気温が下がった。えっちらおっちら登っていると、身体の発熱であまり実影響は無いが、路面はもはや薄い凍結状態である。
ふと後ろを見ると、富士山も大部分が雲に覆われ、裾野がちらっと見えるだけだ。一方、風早峠から船原峠方面に向かう道が、山の間をくねくね通っていた。
まもなく仁科峠到着。道の脇には雪が溜まっている。写真を撮ろうにも自転車が寄せにくい。そもそもこの稜線の道での展望をここでの見返り富士山に絞ってここまで来たが、その富士山はもはや完全に雲に隠れてしまった。
一方、峠から南側の空が、すぱっと綺麗に快晴になっている。何と無く手持ち無沙汰できょろきょろしたり、フロントバッグから補給食を出しているだけで、強い風で服の中の温度が一気に奪われるのがわかる。路面の状態から言って確実に0℃以下だろう。
この先南側の細道下り区間に入ってしまえば、いつものようにどんどん暖かくなるに違いない。ここは早めに足を進めよう。
12:05、仁科峠発。例によって例の如く少し開けた道を下り、そのまま一気に南斜面の森のくねくね下りへ。
さすがに峠でこれだけ雪が多いと、この暖かい道にも雪が多い。しかしその雪は、こっち側の暖かい陽差しで一気に解け始めている。その解けた水が発するのか、あちこちで水蒸気が立ち上がっているのが何とも勢いの良い光景だ。
道の外の森が切れて視界が開けると、仁科へ向かって行く谷が眼下に広がる。その谷の行く手がいつも以上にまぶしく暖かく感じる。
いつもながら長い下りだが、その間にいつの間にか路面の雪は消え、日なたでは明らかな暖かさを感じるようになってきた。
眼下に宮ヶ原の集落が見えると、もう谷底への下りである。
そのまま谷底で折り返し、海まで続く仁科川に合流。しかしまだこの段階で標高350m強、これから更に仁科川の渓谷下りなのである。
大沢里の深層水の水場でちょっと水補給。冬だというのに、いや、冬だからか、水場には水おやじが押し寄せてきていた。あの雪の細道では、仁科峠へ登る気はしないだろう。
大沢里を出発、宮ヶ原を過ぎると杉林に突入し、ひたすら下り続ける。
杉林が少し開ける度、仁科川の谷底がすかっと落ち込んでいるのが見える。
狭い切り立った谷間をその谷底と追いつ追われつするうち、何と無く見覚えのある発電所が登場。間もなく谷の正面が明るく開け、仁科から続く一色の平地が始まった。
拡がった谷底の平野には、梅や菜の花、青々と緑の草、そして道ばたに河津桜が登場。日当たりの良い平地は、一気に陽差しも風も暖かい。行く手の海岸らしい辺りの向こうの空はひときわ明るく、さっきまでの雪の世界からは想像も付かない春一色の世界だ。
13:15、松崎「伊豆ととや」着。いつものように地魚握り、それに今日は金目あら汁が美味しい。修善寺からここまでおにぎり1個しか食べていないため、一気にばくばく食べてしまう。
記 2006.3/2