2005.7/23 夏沢峠 #1-2 |
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(以上#1-1) |
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標高が上がったせいか、深い森の頭上に明らかに晴れ間が見え始めた。何となく明るくなった行く手の木の向こうに唐突に屋根が現れ、13:50、夏沢鉱泉着。
今日はこの先ここから徒歩1時間未満のオーレン小屋まで行けばいいだけだ。かなり時間の余裕がある。まあそういう計画ではあったので、ここは温泉に入るとしよう。食堂もあるようなので、ちょっと寂しくなってきた腹も満たすこともできる。
風呂場はあまり広くはなかったが、黒ずんだ板張りの壁に浴槽、ちょっとだけぬるめのお湯がいかにも山の温泉らしい。温泉から上がって表の食堂でカレーを所望。なかなか落ち着いてこういうのも楽しい。
カレーを食べていると、宿の親父さんが話しかけてきた。ところが、
「表の自転車?そう、夏は通行規制だよ」
とのこと。え、そんな話は聞いていない。
「え?自転車はダメなんですか?」
「いや、そんな話も出てるんだよ。大勢でやってきて、乱暴に下って山道をめちゃくちゃにしちゃうんだよ」
最初の「禁止」からトーンが下がったのがちょっとわからないが、何よりあまり山サイや自転車にいい印象を持たれていないのは確かなようだ。でも、その理由は理解はできる。
「登山者の方にも危険ですしね。自転車乗りにもいろいろあって、山の暴走自転車って問題になってるんです」
という話をしたら、興味を持って聞いていただけたようではあった。
他にもいろいろな話をした。でも、この夏沢峠にも暴走自転車が登場して、そして自転車なんてこの道に来ないで欲しいと直接言われたようで、ちょっとショックだ。弱者の気持ちは弱者にしか分からない。同じ自転車乗りが何を言っても、簡単にわかってはもらえないような気もする。
14:45、ちょっと複雑な気分で夏沢鉱泉発。
辺りを取り巻く鬱蒼とした森、路上の大きな石。夏沢鉱泉まで道にはずっとダートの表情が残っていたが、夏沢鉱泉の先からはもはや山道の道幅が多少広い程度である。斜度も更に増した。
自転車は押しで行けるが、おそらく4駆と言えどもこの道には入れなさそうだ。そういえば夏沢鉱泉の建物の前には4駆が何台も停まっていた。あそこが車の終点なのだろう。
押し上げはしんどくなったが、森の中は相変わらず鳥の声が響いていた。
遡る谷間沿いの木々は薄くなったり濃くなったり。粗密のある雲の薄い部分から差す日差しが、道を明るく照らすこともあった。
押し上げもしんどいくらいの山道だが、その赤味が混じった光を安心と楽しさのニュアンスで眺められるのは、行程の余裕故である。もう夏沢鉱泉を過ぎてしまえば、オーレン小屋まであとほんの少しなのだ。
鬱蒼としていた周囲の木々が低くなると、すぐに木々の間に山小屋の姿が見えた。15:55、オーレン小屋到着。時間的にはまだ16時前だが、今日はここで泊まることになっている。
山小屋にはまだ今日の泊まり客が半分ぐらいしか到着していないようだった。受付を済ませて誰もいない桧風呂にゆっくり浸かってから、山小屋前の小さな広場に置かれたベンチへ。缶ビールを頼んで、今日の補給食のパンの残りをおつまみにする。沢で冷やしてあったビールが限りなく美味しい。
山小屋入口には黒板があって、今日の気温が最高15℃、最低9℃と書いてあった。さすがは標高2330m、わずか数時間前の下界の蒸し暑さが嘘のように涼しく快適だ。最高の風呂上がりのひとときだ。さっきの三井の森の別荘地を思い出した。絶対こっちの方がいい。
意外にビールの回りが速かったので、寝室へ戻ってちょっと一寝入り。隣の隣ではどこかのおやじが大鼾で横たわっていたが、一気に寝てしまえば大丈夫だ。
17:50、夕食は名物の桜鍋。「山小屋にしては充実している」との評判通り、ちょっと濃いめのタレがまたとても美味しい。一通りぐるっと食べると満腹になった。
消灯は21時とのことだったが、さっきのビールのせいもあり、食後は早くも布団へ直行。やはりさっきのおやじの大鼾がまたもや冴え渡っていたが、もはや知ったことではない。
記 2005.7/31