2005.10/9
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(以上#2) |
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いよいよ次は今日最大の新稲荷峠である。峠道で多少心配に思えた空も、谷間へ下ってくるとけっこう明るい。
刈り取りの終わった田圃にゆっくり空飛ぶ赤トンボ、何と無く黄色っぽい周囲の木々や茂み。集落が断続しながら次第に狭くなる谷間はもう秋の気分で一杯である。
小屋、極入と次第に集落の間隔は開きはじめ、その間あまり狭くならない谷間の平場は茂みぼうぼうの荒れ地が続いた。空にも一面に低く色の濃い雲が垂れ込め始めた。次第に標高が上がっているのか、風が涼しい。
低い雲の下、低山の佇まいにどことなく山深さが感じられ始めてから、まだ谷間の1本道は続いたが、行く手の山陰に平場の広がりが現れ、唐突に弥平四郎着。
飯豊山の新潟側登山口の集落とのこと、斜面に民家が肩を寄せているのがちらっと見える。なるほど気が付くと、低い雲で上の方が全部隠れた、壁のような飯豊山の山肌が前方に立ちはだかっていた。
道は急に狭くなって、例によって斜度も急に増したが、まあ地図通りの距離と線形で穏当に新稲荷峠を通過。いよいよ喜多方の隣町、山都町だ。
飯豊山の山形県側には、残雪が夏を越して、秋になってようやく解けるという石転ビ沢がある。さすがはその裏側、気温がさっきから更にぐっと低くなっている。Tシャツ一丁での下りが寒くてしょうがない。
途中でもう1枚半袖シャツを着て、杉林の細道をどんどん下る。
一戸川の谷に合流して、更に薄暗い杉林が続き、やがて前方の谷がぱあっと開けて道が拡がった。すぐに右手に見覚えのある温泉施設が登場。9月に鳴島さんを含む地元の友人達で泊まりに来たばかりの、町営「やまとの湯」だった。もっと上の方だと思っていたのだが。
拡がった谷間の刈り取りの済んだ田圃の中を更に下りに任せて一目散、14:35、相川に到着。
ここから喜多方へは最後の峠になる。
峠とはいえもうあまり標高差も無く、途中の小布瀬の集落を挟んでピークが2つ、部分的に拡幅済。
「喜多方市」の標識を越えてまだ登りがあり「まだかよ」と思った。まあしつこさもありがちな程度のしんどさで、最後の我慢。その頃にはもう頭の中は喜多方ラーメンだけしか無く、地図上の距離を見ながらラーメンを食べるまでの時間を考えていた。
最後の峠部分は森と茂みの中だったが、下り始めて間もなく、谷のすぐ先に、突如喜多方の町の営みが登場。うんうん、今まで見えなかっただけで、地図からだとあんなもんなはず。
峠区間を下りきると、一気に周囲が拡がっていよいよ会津盆地だ。この期に及んで未だに国道459は細道で、広々とした田圃の中を細々と1本道が続くのが何だかおかしい。その1本道が喜多方市街地外周部に取り付くと、細かい間隔の信号機が、まるで嫌がらせのようにつながりが悪い。
早くラーメンが食べたくて仕方が無いのが我ながらおかしい。この時点では、まだそれぐらい気持ちの余裕があった。
15:15、喜多方着。市街地に入ると、目を光らせてうろうろするラーメン客が目立つ。この時間にこれだけ観光客が目立つのはなかなか珍しい。「ラーメンの町喜多方」も、まだまだ安泰である。なかなか結構なことだ、などと思っていた。
ところが、有名店「坂内食堂」の長蛇の列はまだいいとして、その隣の本命「食堂松」に長蛇の列ができているに至って、流石の私もこれは普段と違うと思い始めた。どうやら秋たけなわの3連休中日、喜多方は年間最高レベルの観光客が押し寄せているようだ。何故なら、この時間にこんな混雑、前代未聞なのである。
仕方無いので2杯目に取っておいた通称アベショクこと「阿部食堂」へ。ところがここは営業は15時まで、すでに終了とのことだった。近くのめぼしい上海は長蛇の列、春連はやはり15時までとのこと。
「ラーメン難民」という言葉が頭に浮かんだ。標高差2500mをこなした後、夢にまで見た喜多方ラーメンが食べられないのである。
こうなるとちょっとでも混まない方向で店を絞る必要がある。そこで奥の手で、かなり以前一度入った印象が悪くなかったたまよし食堂へ。遠目には列が無かったが、何と臨時休業。
さすがにここまでダメだと、もう焦る気も失せる。落ち着いて、そのすぐ近くの有名店「まるや」へ足を向けると、有り難いことに列が無くて営業中だった。
ようやくありつけた喜多方ラーメン。ついつい例によって写真を撮るのも忘れて一気に完食。
2杯目をどうするかが問題だったが、とりあえずさっき列ができていた「上海」に向かう。と、店の前にはちょうど誰もいない。自転車を止めたところでおばさんが出てきて「あ、お客さんですか」とのこと。今まさに店を閉めようとしたところだったようだ。
これで3杯目は「食堂松」で決まりだ。そこでちょっと列車の時間をチェック。と、店に入ったのは15:55だったが、新潟行は16:46に1本あり、その後はもう18時半過ぎになってしまう。となれば、16:46しかない。2杯目は速攻で食べてしまわないと。
16:05にラーメンがやってきた。落ち着いて繊細な味わいは実にバランスが良く、1杯目完食直後の2杯目でも実に美味しい。またもやスープまで完食。
ところがここで問題が起こった。腹が一杯になってしまったのだ。美味しく食べられないとかそういうレベルではなく、文字通り一杯なのだ。自転車効果もむなしく、インターバル無しに3杯目に取りかかるのは無理だったのだ。
もはや16:10。30分おけば状況も変わるかもしれないが、それでは列車の発車直前になってしまう。
というわけで、妙な敗北感と、美味しいラーメンによる充実感の入り交じった気持ちで、大人しく駅へ。16時を過ぎたというのに、喜多方の町には、ラーメンを求める人々が、夢遊病者のように所在無く、しかし新手のスタンド使いのように目つき鋭くうじゃうじゃしていた。
記 2005.10/16