新居屋で唐突に正面に国道439、通称与作の細い橋が現れた。
ここで渓谷も今までの祖谷川と京柱峠からの谷道川が合流する。対岸には国道439の立派な新道も現れた。例によって迷わず旧道の細道に進む。
前回通って知ってはいるものの、谷に張り付いて集落と森の中をくねくね抜けて行く与作には、一般的に言う「国道」、幹線道路のイメージは全く無い。集落の中では道は更に狭くなり、2m程度の道幅の両側に軒先や洗い場が並ぶ生活道路の表情となる。
拡幅新道の併走区間では、実は国道指定は外れているが、国道だろうが県道だろうがどうでもいい。道と集落が、道と生活空間が完全に一体となった連続する軒先というか、そういう親しみやすさ、ここに住んできた人々の時間が表情に表れる、普段私が知っている道とはニュアンスの違う空間だ。
集落が途切れると森になり、道はほんの少し拡がるような気もするが、頭上に覆い被さる緑のトンネルのくねくね細道は、どこかの舗装林道より余程狭い。
集落はずっと断続し、谷は深くなったり浅くなったりしながら次第に狭くなり、11:10、前回泊まった菅生の青少年旅行村の登り口を通過。この辺りから集落は途切れ、登りが目立って続くようになった。
標高が上がった分、道の両側は山がだいぶ低くなり、開けた谷の印象がある。現れた山桜に気が付くと、新緑の勢いは大分弱くなっていて、カラマツが目立ち始めていた。風もだいぶ冷たく変わっている。「地図で確認確認」と大義名分を作って足を停める。すでに標高は1000mを越えているようだ。
開けた谷間の正面、稜線が凹んだ辺りのすぐ下には、建物が見えている。あの辺が目指す峠、剣山登山口の見ノ越だろう。まだまだけっこう上の方にある。
13:00、見ノ越着。
剣山の登山口だけあって、狭い駐車場は車で一杯だ。さっき下から見えた、「剣山観光センター」という実も蓋もない名前の峠の茶屋も、けっこう賑わっている。あまり冷えすぎないようにTシャツの上にポロシャツを着て、串焼きの団子を腹に詰め、出発。
茶屋脇のトンネルを抜ける。と、眼前に空と大渓谷が!
行く手の道がこちら側の尾根近くを、延々と正面の彼方へ続いて消えて行くのが見える。「空の道」という言葉が頭に浮かぶ。横を見ると、正対する剣山、一ノ森の山肌が所々崩れて荒々しい。見下ろすと、標高差4〜500mはある渓谷が広がっている。例によって真下には、むくむく生い茂る新緑の木々と、谷底の岩と青い渓流が、泣きたくなるぐらい遙か下にある。
上下左右、正面に拡がる大空間、生物も無生物も逞しい物質ボリューム。とにかくど迫力だ。いや、この高さは感動を通り越して恐怖である。早く降りてしまいたい。
尾根道がしばらく続くと、与作は大きなつづら折れを描き、2回の折り返しで一気に谷底へ降りてゆく。
しかし、この曲がり角で分岐してまだ尾根を進む細道があった。こちらへ向かっても、下りきったところで与作と合流するのだ。しかもそう大回りにはならないようだ。早く降りてしまいたいと言いつつも、折角なので以前から目を付けていたこっちへ足を進めることにする。
コンクリート舗装に変わった細道がしばらく続くうち、道の外に立っていたガードレールすら無くなり、渓谷の展望と道の恐怖度は更に増した。が、中尾山高原のロッジが現れ、下がり始めた尾根を超えて観光牧場の脇で下りへの分岐を過ぎると、もうあとは普通の下りになった。
森や畑の中、標高差約600mを一気に下り、県道260経由で再び与作に合流する。
記 2004.5/8