2002/10/13 小国・飯豊・西会津
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飯豊山荘→(村道)足水中里→(県道15)叶水
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5:00前に目が覚めた。外は昨日と同じようにまだ真っ暗なようだ。寒いのでちょっと布団の中でうとうとするが、10分もすると頭がはっきりしてきたので、起きて荷物を整え出す。昨日あれだけいたカメムシは、部屋の隅やら閉じこめた窓枠の溝でぐったりしていた。寒くて動けないようなのだ。
荷物を整えて外に出る。高いブナの森と宿の屋根の間に、早朝のほわんと白い青空が見えた。今日も空には雲一つ無い。しかし、外は屋内よりも当然のように寒い。昨日より標高が上がって山間であるせいもあるのか、昨日の今頃よりも断然寒いように思われる。
6:00、飯豊山荘発。
昨日登ってきた岩の間の道を下る。山の上には朝の光一杯でまぶしい空が拡がっていた。稜線付近は朝陽なのか紅葉なのかわからないぐらいに真っ赤に染まっていたが、まだ太陽は谷の中までは当たってこない。そのためか、今頃の季節になってようやく春・夏と生き残った残雪が解けきるという「石転ビ沢」から空気が続いてくるのか、谷間の空気は冷たい。走っていると身体に風が当たって更に寒い。指の関節が痛くなるぐらいに寒い。十分速度を落としながら、首筋に指を当てて暖める。道ばたの沢を見ると、一応水が凍っている場所はないので、実際には驚くほどの寒さでもないのだろうとは思う。
長者原に下りると、谷が広くなるのもあり、ようやく朝陽が山の間から姿を現す。標高が下がったのとの相乗作用で、多少は温度が上がっているのがありがたい。そのまま内川を遡り、森・集落・畑を抜け、次第に谷が狭くなり、小玉川の外れから激坂が始まる。今日1発目の樽口峠だ。
取付きはなかなか厳しい登りだが、今まで寒さに震えながら走ってきたので、体が温まるのがほっとする。開けた斜面を登る途中から、背中に壁のような飯豊連峰が姿を現し始めた。それまで上の方だけ見えていた山々が、全貌を現したのだ。朝の光で真っ赤に輝く山肌、逆に青いような沈んだ色の谷のコントラストが意外なほど近くに見える。
登り切って道が尾根を巻く手前、峠の展望台のような広場からは、2000m級の山々が右から左へ続く大パノラマを間近に見ることができた。目の前に立ちはだかる山脈のほとんど全山に拡がる広葉樹林は、稜線付近しか紅葉していないようだ。山々の日なたの部分は、紅葉の色に朝日の色が重なって、まるで真っ赤な輝くような色になっている。彫りの深い山肌の谷の部分は、早朝や夕暮れ特有の青い影になって、日なたと日陰のコントラストがくっきりと、迫力のある眺めだ。
朝陽に照らされているためか、辺りの気温ももはや寒くてたまらないという感じではなく、登りで火照った身体を冷ましてくれるのが気持ちいい。目の前の素晴らしい風景と共に、何とも居心地が良い。
ついつい写真を撮っているうちに5分、10分と時間があっと言う間に過ぎる。7:05、樽口峠展望台発。
少し先に丸太が立っていて、そこに「樽口峠」と彫り込んであった。行く手の向こうには、道と両側の木の形にぽっかり抜けている空と、道が下り始めているのが見えた。
斜面の森を下りきって放り出されるように、樽口の田圃の中に出た。朝陽に照らされた山の陰になっている谷間に、まだ夜露の残る小さな集落、刈り取られた田圃の中が続く。もうすっかり農作業は始まっていて、あちこちに人影や軽トラが見える。
足水中里からは極楽峠への登りが始まる。この距離で標高差200m程度、斜度はそう厳しくないはずだ。と思っていたら、分岐のすぐ向こうからなかなかの激坂だ。入口だけけっこう厳しいパターンかな、と思っていたら、そんな登りがしばらく続く。頃あいを見計らって立ち止まり、再び地図を見直すと、名前が無いのと詰まった等高線の狭間だったのと、地図4枚の分割点だったので見逃していた小さな峠のようだった。おまけに峠?近くは道路が拡幅されていて、地図とだいぶ道が違っている。
越えた側の谷には、すぐ下の方に真っ白な濃い霧が溜まっている。山々が所々頭を出していて、何だか入り組んだリアス式海岸のようで面白い風景だ。霧の中へに突入すると、50m先が全く見えないぐらいかなり濃い霧だ。さっきまでの朝陽の中の風景が嘘みたい。
下りきって道が分かれ、今度こそ極楽峠への登りが始まる。霧はあくまで下の方だけ溜まっているようで、ちょっと登ると、青空、朝陽とともに、再び周囲の風景が浮き上がるように現れてきた。
地図で小倉という名前で集落っぽく描かれている場所は廃村になっていて、かつて民家や畑だっただろう平場の広がりが、高いススキに埋もれ始めていた。「小倉を偲ぶ」なんていう板も立っている。茂みに埋もれて朽ちかけた廃屋を包んで、相変わらずススキの穂が白く輝いてまぶしい。
多少開けた草原や川岸の湿地帯を横目に、ブナやらの広葉樹と杉の混ざった森の中に、登りが続いた。細い道の両側に生い茂る広葉樹が、木立を透ける朝陽と朝露で光り輝いているのが何とも美しい。
8:10、極楽峠を越え、再び広葉樹林の中の下りを叶水まで。
叶水から九才峠までは、そう広くない谷間の集落や森、廃村らしい草原に、だらだら緩い登りが続く。太陽はもうだいぶ高くなっていて日なたがだいぶ暖かいが、茂みや木々にはまだ夜露が残っている。朝の日差しで緑が美しいのは相変わらずだ。
ちょっと腹が減ってきたので、飯豊山荘で作ってもらったおにぎりを食べることにした。自転車を橋のたもとに留め、静かにすると、ススキやクズの茂みの中で低く鳴くコオロギの声が聞こえ始め、寒そうに弱々しく飛ぶアカトンボや草の陰で佇むバッタが次第に見えてきた。
9:00、九才峠通過。向こう側に出ると、今までの木々の間の道と違って、視界が一気に開け、緑の木々で覆われた山々が拡がった。
青空の下、北に向かってなだらかに下ってゆく斜面一杯に樹海が拡がって、彼方の里の方が白く霞んでいる。もうあっちは米沢の盆地なのか。一方、南側の福島県境の境の山々は近づいてきていた。後であの辺まで登ることになるのだ。
再び下り始めると、山々を見渡す開けた道は、やはり開けた感じの谷に滑り込む。広葉樹林の中をちょろっと下り、9:15、塩ノ畑に到着。こからいよいよ本日のハイライト、五枚沢林道のダート県境越えに向かう。
白川沿いの広めの谷には、田圃やら小さな集落が続く。山の形と言い、谷間の広さと言い、何だか北海道の北見地方を思わせる広がりのある谷間だ。もうすっかり高く昇った太陽と雲一つ無い澄み切った青空の下、白く輝くススキの穂、草むらの中で鳴く虫、飛び交う真っ赤なトンボ、何を見ても秋らしい。
集落や田圃の中をの中を大分進んだ辺りの飯豊山登山口では、道から飯豊連峰が直視できた。壁のように立ち上がった山肌は美しくも逞しく、巨大で清らかな佇まいに息を呑む。
周囲の山々も次第に近づいてきていて、登山口からは急に谷が狭くなった。渓谷に、高く険しく切り立った岩山が迫り、息を呑む。高い山、深い森の谷をしばらく遡るうちに、坂はいつの間にか急になって、山の上の方にあった紅葉が道路際まで降りてきた。
そろそろダート区間かな、と思っていると、目の前の直登の坂の上につづら折れが見え、更にその上に地図には全く載っていないトンネルの入口が出現した。
唖然。今日はこのままトンネルで福島県へ抜けてしまうのか。道の脇からは茂みの中へ何かあやしいダートが分岐している。或いはこちらが地図に載っている、予定コースの黒線の道かなとも思うが、茂みの感じが何となく信用できないようにも思えた。
時間もまだ10:05、目論見よりもやや早いことだし、何かあやしいダートより舗装トンネルの方が安心なように思える。が、入口に辿り着いてみると、バリケードが立っていて、中は真っ暗。一瞬躊躇したが、「飯豊トンネル」「1998年開通」とも書いてある。どうやら未開通、と言うことは無さそうだ。
まあ、こっちへ行ってみるか。
中で曲がっていて途中で下り出すため、入口からの光が遮られるトンネルの中は、実際の長さ以上に長さを感じた。弱いライトで道路を照らしつつ、真っ暗な道に不安でしょうがなくなり始めた頃、カーブする行く手の壁にほのかに明るい反射が見え始めた。やがてそれが大きく確かなものになり、意外と近くだった反対側の出口が見えてきた。
トンネルを抜けると、砂利の締まった路盤が続いた。山に沿ってカーブする道の縁の外には青空が、そして切り立った斜面の下からは、拡がる山々に密度も色も濃い緑の大樹海が続いていた。
福島県に出た、という気持ちになった。
ところが、カーブを曲がりきると、その向こうに建設重機が動いている。道はそこの空中で終わっていたのだ。作業員の方に道を尋ねると、最低限トンネルを戻らないと行くことも戻ることもできないようだ。どうやらさっきの怪しげなダートが向かうべき道だったようで、その説明には「俺は行ったこと無いんだけどね」という注釈が付いていた。どうあれ、とりあえず引き返すしかない。
再び飯豊トンネルの山形県側に出たのは10:25。結局、何だかんだで20分のタイムロスだ。痛い。
記 2002/10/30
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