2002/10/12 朝日スーパー林道
鶴岡→飯豊山荘#1

鶴岡→(県道350・国道112・県道383)朝日
→(県道44・349・朝日スーパー林道)林道記念碑
(以下#2) →(県道44・349・朝日スーパー林道)奥三面ダム
→(三面林道)板倉→(県道261)小国
→(国道113)赤芝→(県道260)長者原→(村道)飯豊山荘

143km  RIDE WITH GPS

 CanonT90 NewFD20-35mm1:3.5L SL KR

 4時前に1度目が覚めた。特急「あけぼの」はちょうどあつみ温泉に着くところで、古い板張りの商店や住宅が建ち並ぶ寂しそうな町並みが見えた。向こうの暗闇の中にぼやっと幾つも拡がる灯りは、多分沖に出ている漁船のものだろう。ちょっと効き気味の空調のせいもあり、灯りが照らす人影のない町は何だか寒そうに見えた。

 4:35、鶴岡着。まだ真っ暗で人気のない駅前広場で自転車を組み立て始める。寒い。フリースを持ってきて良かったと思う。手袋も欲しいぐらいだ。ふと見上げると東の空が何となく明るくなっては来ているようだった。

 今日は朝日スーパー林道を経由して一度新潟県へ抜けてから、山形県小国町の飯豊温泉まで行く。鶴岡を早く出発できるので、時間的には余裕がある。そこで、経由地をどうしようか考えていた。
 一つは朝日スーパー林道の途中から三面林道に分岐、直接小国に抜ける案。こっちは近道だが、途中の蕨峠付近にダートがある。
 もう一つは朝日スーパー林道を最後まで行って、県道273で山の麓の農村をつないで国道113へ出る案。遠回りだが、その後の農村は地図では楽しそうに見える。また、三面ダム付近のアップダウンが手強いらしいが、朝日スーパー林道を抜けると標高差は少ない。デメリットは幹線国道の国道113を長い間走らないといけないことだ。
 どっちを行くにしても、まあそこそこ以上には楽しそうなコースではある。あまり考えても結論は出ないように思えたので、奥三面ダム手前の分岐辺りで気分で決めることにした。

  A地点からC経由でB地点へ 赤は本日の経路

 時間つぶしを兼ねて、駅近くのコンビニでカップ麺をすするうち、周囲はぼんやりと明るくなっていた。星が見えていたのである程度期待してはいたが、空を見上げると、夜空の真っ暗な部分からから明るくなっている部分のグラデーションが、何にも邪魔されることなく全部見えている。雲一つ無い晴れである。

 5:30、鶴岡発。寒い。指先が痛いぐらいかじかんでいる。
 まだ車も少ない薄暗い街の中、国道112へと向かい、郊外から農村部へ出る。庄内平野の田圃が拡がる向こう、東の方の山々が明るい空をバックに青い影になっていて、麓の集落がある辺りはその影の中になっていた。西側の山々はもう真っ赤な朝陽が当たっている。その赤は紅葉のようでもあり、単に朝陽の色だけであんな色になってしまうようにも思える。

 国道112から分岐する旧道の県道383へ入ると、1車線の県道からは農家の庭先や畑、田圃が幹線国道より近い高さで間近に見える。6時前なのに、もう農家はそろそろ外に出て仕事の準備を始めていた。すっかり刈り取りが終わった田圃には、切り株から稲の2度目の新芽、ひこばえが勢い良く伸び始めていた。このまま冬になると枯れてしまうのは、何かもったいない気がする。
 空も辺りももうすっかり明るくなっていたが、いかんせん朝陽が照らしているのはまだ西の山々の上の方だけだ。庄内平野を奥に進むにつれ、山々は次第に近づき、陰になっていたディティールがわかるようになってきた。麓の木々はまだほとんど紅葉していないようだ。

  A地点からC経由でB地点へ 赤は本日の経路

 朝日から大鳥川の谷へ入ると、交通量は一気に少なくなった。取り付きの本郷辺りでもともとそう広くなかった谷間の広がりは、そのうち更に狭くなった。断続する集落では道の両側に農家が迫り、集落を抜けると細い道の頭上が木々で覆われた。
 狭い谷間には、今までのように刈り取りの済んだ田圃に、何と無く色付きかけたような兆しの見える気もする広葉樹、そしてススキの穂が目立つ。夜露に濡れているのか、穂があまりふさふさしていない。

 6時半に集落の有線放送が鳴る谷間の中の道を進むと、地図通りに道ばたの集落が小さくなり、その間隔も長くなっていった。
 せっかく太陽が次第に昇っているのに、向かいの山々が近づいて、なかなか谷間に日が射さない。冷えた空気が谷間の奥からやってくるのか、依然として指の関節がちょっと痛いぐらい寒い。

A地点からC経由でB地点へ 赤は本日の経路

 上田沢の集落を過ぎると、今までとは明らかに違う斜度の坂が始まった。荒沢ダムのダム湖外周道路へと登るのだ。朝の湖岸は静かで物寂しい。湖の終わったところで多少周囲が開け、7:20、高岡着。

  A地点からC経由でB地点へ 赤は本日の経路

 ここには朝日スーパーラインの山形側最後の宿「朝日屋旅館」や、キャンプ場も併設されている「タキタロウ広場」がある。タキタロウというのは魚の名前で、この高岡から道が延びている大鳥池に棲む「幻の魚」だそうだ。このタキタロウと言う名前は、漫画の「釣キチ三平」で読んだ記憶があった。山奥の池に幻のタキタロウの正体を見に釣りに行くという話も、なんとなく印象として覚えていた。しかし、タキタロウがどういう魚だったかまでは覚えていなかった。ところが、このタキタロウ広場脇の、橋のレリーフに描かれた鱒のような絵を見て思い出した。もともと海の魚が、地殻変動で盛り上がった山上の池に封じ込められたまま、現代までその池で生きているというのが結論だったように思う。

 その幻のタキタロウの棲む大鳥池へ向かう谷間には朝霧が立ち込めて、それが太陽を背に乱反射し、まぶしい発光体のようになっている。振り返ると、今まで通ってきた道、見回す周囲の風景は、逆に澄んだ空気に青空、木々の緑が朝陽に照らされて鮮やかだ。鶴岡出発はちょっと早すぎるぐらいの時間だったが、この時間に来れて本当に良かったと思った。

 RICOH GRV GR18.3mm1:2.8

 山形県側最後の集落、松ヶ崎の中の細道が雰囲気が良かったのと、さらにその奥の最後の田圃が、朝陽の逆光の中でまた素晴らしい雰囲気だ。写真を撮っている間にあっと言う間に時間が経つ。

 RICOH GRV GR18.3mm1:2.8

 いよいよ西大鳥川に沿って山の中へ入ってゆく。坂はまだあまり厳しくないが、川の両岸に山が迫る狭い谷だ。でも、頭上は常に開けていて、そう閉鎖的な雰囲気の道ではない。山や木々が高いので、陽射しはまだまだ道には入らず、気温もあまり上がっていないが、所々でまぶしい朝陽の逆光が差し込んできて、日溜まりが暖かい。

 RICOH GR1 GR28mm1:2.8 CTS200
   RICOH GRV GR18.3mm1:2.8

 道の両側にはブナ林とススキの白い穂が目立つ高い茂みが続く。ブナはぐねぐねと太い幹のブナが多い。紅葉はまだまだのようで、時々ちょりちょりと縁に黄色が見られる葉があるぐらい。ススキの白い穂が鋭い朝陽に輝き、茂みの中ではコオロギやら様々な虫が低く鳴いている。草にも木にも路面にも何となくまだ夜露がしっとり残っているようだが、水蒸気に木の間から差し込む光が反射して光の筋を作っていたり、また、湿気故に日なたは何か色鮮やかで、山間の細道は彩り豊かだ。

  A地点からC経由でB地点へ 赤は本日の経路

 緩いながらも緩急を伴った登りが続く。次第に谷が深くなり、西大鳥ダムの向こう辺りから「来たな」という感じでダートが始まった。話に聞くほど砂利は多くない。これなら走るのはそう大変ではない。でも、坂も次第に急になり、登りが始まると谷に向かって開けた道になった。身体も暖まってきたので、朝露に濡れた茂みの脇に自転車を停め、ここでフリースとレッグウォーマーをサドルバッグに仕舞う。

 ブナ林の谷を見下ろしながらダートが続く。次第に高く昇った太陽はすっかり谷間を照らしていた。道の周りは相変わらず開けていて、時々谷側にブナの木がかかると道が緑の木漏れ陽に包まれるのが楽しい。路面は所々で砂利が深めになったり、短い舗装区間が現れたり、まあまあ概ね良好と言える。

 RICOH GRV GR18.3mm1:2.8

 長い登りの後、谷の鰍沢に沿っていた林道はくるっと向きを変え、ぐいぐい標高を上げていった。間もなく上の方に稜線を回り込む道が見えてきた。
 9:05、県境着。いままで通ってきたのは山形県の朝日村だが、これから入るのは新潟県の朝日村である。紛らわしいというか珍しいというか。

 RICOH GRV GR18.3mm1:2.8
  A地点からC経由でB地点へ 赤は本日の経路

 県境を新潟県側へ回り込むと、谷間がすとんと落ち込んでいるのか、空中の山々の拡がりがブナの木々の向こうに見えた。少し進んで再び舗装が現れた辺りでブナは切れ、奥へ奥へと続く山並みが見通せるようになった。凄い。標高850mぐらい、そんなに高い訳じゃないのに、この視界の広がりは。

 手前の重蔵山、その奥に彫りの深い山肌が表情豊かな枡形山。谷の反対側にはこれから向かう鳴海山が見える。山々は稜線のエッジが立っていて、山肌に何か細かいひだというか、無数の細かい凸凹があり、谷間で一気に落ち込む斜面と共に、精密でダイナミックな独特の表情を見せていた。山肌は緑の広葉樹に覆われ、濃い緑のビロードのような、更に精密な表情になっている。

 RICOH GRV GR18.3mm1:2.8

 青空の下、谷の奥は緑の大樹海と山々が続き、緑からはっきりしない色になって、視界の彼方へ消えてゆく。ちょっと離れた一番奥の一際高い山は、多分飯豊連峰だろう。今日はあの麓で泊まるのだ。

 RICOH GRV GR18.3mm1:2.8
   RICOH GRV GR18.3mm1:2.8

 少し先の林道記念碑の周囲は展望台のようになっていて、ブナの巨木が道の縁から青い空の中へ聳え立っていた。県境付近でも展望に見入ったが、ほんの少し下って進んだだけのこっちでも、さっきとは山々との位置関係が違っていて、山々の表情、谷の陰影はまた少し違う。雲一つ無い空に濃い緑の大樹海は感動的で、ブナの巨木の透ける緑も感動的だ。

 またしばらく風景に見入ってしまい、結局9:25まで足止めを食った。
 その後の下り区間でも、壁のような斜面に張り付いた道は周囲が開けていて、下ったら下ったなりに風景が変わる。その度にしょっちゅう立ち止まって写真を撮るので、全然先に進まない。

 RICOH GRV GR18.3mm1:2.8
 RICOH GRV GR18.3mm1:2.8

記 2002/10/25

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Last Update 2021/9/23
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