晩生→(国道336号)新十勝大橋
→(十勝川堤防)豊頃
約43km
豊頃
帯広
糠平
新十勝大橋
晩成
朝起きると、天気は再び復活して雲一つ無い激晴だった。しかも、空気はなんとなく暖かい。
今日は夏用レーパンで走ろう。疲れもすっかり取れているようだ。やっぱり疲れたら寝るに限る。
おかみさんと言うにはお若すぎる「セキレイ館」の奥さんは、かつてランドナーのチャリダーだったらしい。学生時代は六甲の上の学校まで片道25kmを週4回通っていたとか、ダート時代のナウマン国道を走破したとか、伝説のような話を聞かせてくれた。
宿の倉庫にはピンクのランドナーが大切に置いてあり、旧デオーレの三角カンチブレーキ・SIMANOの刻印入りのシフトレバー・サカエのかっこいいフロントホイールが付いていた。「ガレージからパーツが盗まれることがあれば、多分私の仕業でしょう」と言ったら、ウケていた。
8:10、晩生「セキレイ館」を出発。
やや風が出てきているが、追い風なので今のところは快適だ。海岸沿いに原生林が続く、ややアップダウンの多い地形を、ナウマン国道(336号)はくねくね曲がったり、丘を越えたりして東へ向かう。
幅が広くかなり走りやすい舗装道路に沿ったり離れたりして、半分風化しつつある旧道が通っている。思えば、この道路も長い間湿地帯の長距離ダート国道として有名だった。おまけに、ダートの最後には、十勝川を渡し船で結んでいたのだ。
生花を過ぎた辺りから、風は次第に強くなり、向きも次第に向かい風方向に変わりつつあった。
原生林の低い丘・谷間の湿地帯を抜け、国道のアップダウンが続く。標高差50m程度の丘の頂上へ登り詰め、後ろを降り向いた。
朝の澄んだ空気の中に、手前の丘から遠くの丘・その向こうの農場・カラマツの防風林、さらに遠くには残雪の大雪山系から日高山脈へ続く、十勝平野を囲む外輪山が見えていた。
10:00、やがて最後の湿地帯・丘を抜け、十勝川河口を渡る「新十勝大橋」に着いた。川を渡るまでにある程度高さを稼いでいる(船の通行のためだと思う)ため、河口付近の十勝川や周辺の展望が見事だ。いや、周辺が見渡せると言うよりも、十勝平野の端っこを力強い曲線を描いて流れる十勝川の風景が見事、と言うほうが正しい。反対側はすぐ十勝側河口、その外は太平洋だ。
今日はこの風景が見たくて、ここまで回り道したようなものだ。橋の真ん中にはライダーがいた。やっぱり風景に見とれて休んでいる。お互いに感動している最中なので、挨拶しても冗舌になり、「十勝新名所ですねえ」なんて橋の上で話した。
橋からの十勝川に見とれていたら、川の堤防を走りたくなってきた。しかしそれでは、今日のルートからは外れてしまう。
そこで、考えてみた。
今日はこれから糠平湖まで行けばいい。しかし、糠平の手前の上士幌まで、新十勝大橋→浦幌→本別→勇足→士幌→上士幌というコースは、実は全部一度走ったことがあるコースだ。一方、風は完全に横風で、今後の進行方向に対してはかなり強力な向かい風となる。どうせ向かい風なら、道は楽しいほうがいい。豊頃までダートでスピードが出ない分、新十勝大橋→豊頃→池田→勇足のコースは、距離が短い。
決まりである。と、この時点ではまだこんな甘いことを考えていた。
10:10、十勝川の川原を豊頃へ向けて走り始める。
雑草が芽吹く川原の土手は、川とともに大きな大きなカーブを描いて続いてゆく。砂利が少なく、土の固まった走りやすいダートだ。
しかし、さっきの向かい風は次第に強力になり、ものすごい勢いになっていた。ダートを走っている自転車が風で流されて、砂利の上でずるずる滑って転びそうになる。42×20でのろのろとしか進むことが出来ない。
旧国道の渡し船付場の横を通過する。確か新十勝大橋開通から3年くらい経っていると思うが、船付場は完全に閉鎖されており、かつて国道だった取り付き道路には、まるで時間が止まったかのように、いや、もはや全く文明の香りと言う物が無いほど確実にどんどん風化していた。
その後も、ほこりっぽい川原のダートで、吹き飛ばされそうになりながら向かい風との戦いが延々と続いた。「初代この木何の木
ハルニレの木」の手前で土手続きの道路に入り、11:10、豊頃着。たった8kmに1時間以上かかってしまった。国道38号脇のセイコーマートで補給する。
店の外で、買った弁当を食っているうち、風がますます強くなってきているのに気が付いた。目の前の国道38号と道道の交差点を眺めていると、看板なんか飛ばされそうな勢いで強い突風が吹き荒れている。この風の中、池田→勇足→士幌→糠平湖と進むのは、自殺行為のように思えてきた。今日はすっかり疲れも取れ、士幌まで早く着いたら然別湖を経由しようと思っていたくらい走る気はあるのだが、これだけ風が強いとそれどころではない。
気持ち的にも引き始めていたようで、「輪行」という文字が頭の中に現れた途端にどんどん大きくなり、国道の裏手にある豊頃駅からの輪行を決めるのに時間はかからなかった。風で走るのを止めたのは初めてで、ちょっとショックだった。何より、士幌周辺の十勝らしい風景の中を走りたかった。
16:40、東大雪ぬかびらYH着。標高500m以上の糠平は肌寒かった。というか、風が冷たく、身に浸みる。
18:30、夕食になる。
天気予報によると、明日は気圧の谷間で天気が下り坂、全道で強風注意報・降水確率は午後から道内軒並み50%以上、あさって4日はさらに大荒れとのこと。私もけっこう当初の予定を引きずるほうだが、これだけ天気予報でばしっと言われると、あと2日残っていた行程を変更せざるを得ない。
どっちにしても、4日は走るのをあきらめた。明日の宿、母子里一刻館の森田さんにとりあえずTelし、宿泊をキャンセルさせてもらう。
20:00、夕食後の幌加温泉ツアーに連れていってもらった。
熱心そうな宿主さんは、
「高地さんが今年最初のチャリダーですよ」
とおっしゃっていた。光栄である。明日は、との問いに、
「いろいろあって迷ってるんですよー、上川抜けるか然別湖行くかそのまま新得抜けるか、風と天気次第ですねー」
と例によって冗舌に答えると、
「明日の朝決定ってことですね」
と静かに答えられていた。この人わかってるな、と思ったが、案の定かつてチャリダーだったらしい。
幌加温泉は、糠平から糠平湖沿いに国道237号を10km以上登り、脇道の激坂を1km登ったところにある、山奥の混浴露天風呂だ。
温泉旅館の更衣室を出たところで、早くも完全に混浴である。カルシウム槽・硫黄槽・ナトリウム槽とあるが、この内湯の外にお目当ての露天風呂がある。露天風呂は真っ暗で、おじさんもおばさんもお兄さんもお姉さんも、星空を見上げながらみんな同じ湯船に浸かっていた。
流れ星なんか平均20秒に1回以上、びゅんびゅん飛んで行くのが見える。ゆっくり飛んで行くのは人工衛星。真上には北斗七星。私は高校時代にけっこう「北斗の拳」に影響されたので、北斗七星を見ると死兆星を探してしまう。
隣には、なんか職場の秘密カップル風の若い男女が入っており、職場の上司や恋人同士の同僚がいつ結婚するのかと言う話を延々としていた。
星空を見上げながら、加減のいいぬるいお湯に浸かり、ついつい長湯してしまった。この見事な星空からは、明日の天気が下り坂とはとても信じられないのだが。
私もYHのツアーで連れてってもらって初めて知ったこの温泉だが、最高だった。
このYH、ロケーションは多少地味かもしれないが、大当たりである。
記 1999.5/7
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Last Update 2002.12/17