Weather Report
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Joe Zawinul - p,el-p,synth,perc |
ウィーンにJoe Zawinul's Birdlandというジャズクラブがオープンしました。Birdlandというのは1950年代マンハッタン52番街、伝説のジャズクラブですが、Joe ZawinulのBirdlandといえばWeather Reportの有名曲。Zawinul自身は経営には関わっていないようですが、Zawinul故郷のウィーンのジャズクラブとしてはこれ以上無いぐらいの名前でしょう。
ライブ録音や他の人の演奏も含めて、Birdlandは1976年録音のHeavy WeatherのA面1曲目のものが代表的とされることが多いように思います。前述のJoe Zawinul's BirdlandのHPも、アクセスするとまずこの1976年のBirdlandがFlashで流れます。しかし、Zawinul本人は近年のインタビューで「8:30に入ってる奴が最高だ」と言い切っています。
この作品は78〜79年のライブ録音9曲(LPではA〜C面)と、スタジオ録音4曲で構成されています。しかし8:30と言えば、専らライブの9曲を指すのが一般的で、残りのスタジオ録音4曲は、どちらかというと不当な扱いを受けています。
ライブ9曲のメンバーは、この作品を聴いたことがある人なら説明の必要が無い鉄壁メンバー。Zawinul、Shorterの2台巨頭に超人Jaco PastoriusとPeter Erskine、「メンバーがそれぞれ自分の音を持っていたので、曲を書くのが楽だった」とZawinulが絶賛する4人です。特にJacoとPeterには、曲の重要な部分を任せている節があります。スタジオ録音ではキーボードでベースラインを弾いているような部分をJacoが演奏していたり、パーカッションとドラムの部分を千手観音のようなドラムが一人で埋めていたり。
そう、他の時期のWeather Reportには常にパーカッション奏者が在籍していたのに、この時期だけはパーカッションが入っていません。JacoとPeterの絡みがあまりにタイトでしなやかで他の打楽器奏者が入る余地がなかったからとか、はたまた前任者Manolo Badrena程の後任が見つからなかったとか…で、ZawinulとJacoがバックでパーカッションを演奏している場面もあります。
ちなみに、この後80年からBobby Thomas Jr.という個性的なパーカッションがこのメンバーに加わって、このバンドはサウンドを少し変え、オーソドックスなジャズ風のワイルドな「Night Passage」、キーボードがカラフルになり、バンドの一体感が増した「Weather Report('81)」という2大傑作を生み出す、絶頂期と呼ばれる時期を迎えます。
音楽を統率するのはZawinul、圧倒的なアドリブで演奏をZawinulワールドから異次元に突入させるのはShorterですが、この枠組に生き生きとした躍動感を与えるのがJacoのベースとPeterのドラムです。
特に重要なのはドラムのPeter Erskine。Peterの在籍したこの時期、Weather Reportのサウンドは、Zawinulが意図した密度と空間ボリュームを、バンド史上初めてZawinulが意図した以上に両立できていると思います。また、ベースをほとんどメロディ楽器のように華麗に扱いつつ、同時に力強いグルーヴ感も醸し出すJacoのベースが、彼の演奏記録の中でも一番生き生きと捉えられているということも、この作品の大きな聴き所です。
Weather Reportの有名なコンセプトで、「We always solo,but never solo」(「我々は常にソロを演奏するが、それは同時にソロではない」と訳されています)という、1971年のWeather Report('71)のライナーノーツに書かれたZawinulのセリフがあります。この作品でもまさにその通り、緻密に構築された曲が、4人のアドリブやインタープレイによって表情を新しくするという瞬間は、たまらなくエキサイティング。
A面一曲目のBlack Marketは、76年のスタジオ盤とはがらっと変わったアップテンポ。この曲だけでもこの作品の凄さがわかると思います。サビ部分のベースラインは、全ジャズファンに記憶されてしかるべきものでしょう(もちろん、この作品のJacoの演奏は、どこからでも全部演奏できる、というベーシストは多いことでしょう)。この曲でのShorterとPeterの白熱バトル、B面のTeen Townでの爆発的な盛り上がり、その直後のA Remark You Madeのピアノ・ソロ前後、「バンドの呼吸」という言葉が頭に浮かぶようなデリケートな演奏など、強弱・緩急・音量のダイナミックレンジは圧倒的です。
スタジオ4曲は、LP盤A〜C面とは打って変わって、それ以前のWeather Reportの演奏とは少しイメージが違う曲が入っています。D面1曲目の8:30なんかZawinulとJacoのドラム(!)のデュオで、今となってはWeather Reportというより、Zawinul Syndicateっぽい。また、その後のZawinul作品DialectsにつながるようなBrown Street、コーラス入りのThe Orphan、手慣れた4ビートで一気に盛り上がるSightseeing、聴き手も多少とまどいつつも、これらの曲をライブの後に自動的に連続させて聴いてきたように思います。
Zawinulのライブでは、ソロ中に頓狂な不協和音が大音量で入ったりZawinulが叫びだしたりとか、意外な展開がよくあります。他のライブ9曲と全く脈絡がないように聴けるこの4曲も、そんなことを思い出させてくれます。Zawinul Syndicateの名盤World Tourでも突然スタジオ曲が2曲入っていましたが、きっとこの人はこういうのが好きなのだと思います。
でも、そういう違和感のあるこれらの曲も、この直後の前述の「Night Passage」の時期、彼らはさらっとライブで演奏してしまっていたりします。
CD化にあたり、米コロンビアではLP2枚組から1曲を抜き、1枚にまとめてしまうという暴挙に出ました。これを是正したのは日本のソニーミュージックエンタテインメント。のみならず、定評の20bitリマスタリングでLP時代を超える迫力のある音になっているにもかかわらず、値下げを断行。良心的です。
この作品を、私はジャズを聴きだしたころからもうかれこれ20年以上愛聴しています。愛聴というより、疲れたり辛い時にも元気を与え続けてくれた音楽という方が適切でしょう。
1986年にはWeather Reportが解散、その年にはこの作品でこんなに生き生き演奏していたJacoがフロリダで悲しすぎる最期を迎え、いつの間にかWeather ReportよりZawinul Syndicateの方が歴史があるという位、今ではこの作品は昔のものになってしまいました。しかし、未だにこの作品は、初めて聴いたときのショックと感動を、聴く度にそのまま思い出させてくれます。
記 2004.2/3
Last Update 2004.2/6