頸城の秋98 #2 1998.11/15 松代→十日町

室野

十日町

田沢

森宮野原

山伏山

深坂峠

野々海池

野々海峠

菖蒲高原牧場

菖蒲

大島

中野

松代(菅刈)

今日の経路(赤表示)と既済経路(灰色表示)

菅刈→(国道253)池尻
→(国道403)大島
→(県道13・229・国道405)菖蒲
→(県道346)菖蒲高原牧場
→(林道)越手
→(県道49・国道117)森宮野原
→(国道117)十日町


 10:40 OB会を早退し、松代発。
 早朝の濃霧はもはやすっかり晴れ、気温も昨日より明らかに高くなっている。目標地点はないが、何にしても明日からまた仕事なので、夕方にはどこかの駅に着きたい。地図を見てなんとなくピンときた大島村経由で野々海峠を越えるコースに決めた。あとは決めていないが、まあ飯山線なり北越急行のほくほく線なり鉄道があるので、どうにでもなるだろう。
 周囲を山に囲まれた松代の町は、国道235号を中心に緩い登り坂に展開している。古くからの商店や建物と、国道拡幅後の比較的新しい建物が入り混じった、比較的風情のある静かな田舎町だ。前述のように北越急行ほくほく線が昨年開通し、初年度は黒字だったそうだが、道の駅と一体化したコンクリート打ち放しの駅舎が完成したこと以外、町の風景に変化は感じない。

 昨日通った道を通り、11:00 室野を通過。国道353号はこの地方としては比較的開けた感じの変化の少ない谷間を行く。

 やがて本格的に坂が始まる。標高約360mの峠トンネルを抜け、サミット部分の緩い登りが終わり、カーブを曲がったところで下り坂が始まる。
 大島村の中心部へ向けて谷を下って行くのだが、他の山を見下ろして谷の中へ下るため、とてもダイナミックな展望だ。見下ろす山は頂部だけ平らな台形になっており、てっぺんの平らな部分に集落がある。この部分の農家・棚田が林の中に見え隠れしている。谷はいきなり深くなっており、遠くの方しか谷底が見えない。なんだかその風景は入りくんだ渚のように見え、意外な印象がある。下り坂でスピードが上がるのがもったいないので、ブレーキをかける。
 道路はこちら側のやはり入りくんだ斜面を下っており、カーブしながら谷の中へ回り込みながら下って行く。
 今日も朝から「こっちに来てよかった!」状態。

 谷間へ突入してから更に川沿いに下って、11:30 大島通過。標高は170m程度。
 一転してやや開けた谷間に連続する集落の中を行く。何故か11:30のサイレンが響きわたる。「ほたるライン」なんてまた看板が立っており、パブロフの犬のように、「蛍!蛍ー!」と田中邦衛風につぶやきながら、しかしこよなく美しい農村風景にうっとり見とれていた。
 大島から標高370m程度の菖蒲までは、終止のどかな農村と水田の中を通る。例によって茅葺の農家や棚田・小さな神社や小学校・杉やブナの林など、この道の風景は特にこの地方の典型だ。午前中の気持ちの良い陽ざしの中で、緩い登り坂をゆっくりと走っていると、ツーリングのヨロコビをひしひしと感じる。
 地図を裏返すため、道端に停まる。稲が刈り取られた後も水の張られた田んぼから、イトトンボが次々とやってきては、ハンドルやらトレーナーの襟やらに止まって、また飛んでいく。気が付くと、テントウムシもトレーナーに止まっている。

 ふと、「山のたけちゃん」という岩波書店から出ていた絵本を思い出した。
 この本は幼児〜小学校低学年向けと思われる絵本で、山間の農村の四季が淡々と散文詩的に描かれていた。特に悲しい話や何かストーリーがある本ではないのだが、何故か子供のころ読んだ絵本の中でもダントツで記憶に残っている。特に印象的だったのは、秋の運動会と冬に魚の行商が雪道をそりに魚を積んで売りにくる下りだ。「山のたけちゃん」を読んで、自分の中に「典型的な農村像」のイメージが生まれたと思う。あのたけちゃんの住んでいた村は、この周辺なのではないかと思った。

 緩い坂は次第に急になり、こちらのペースも更に落ちる。昨晩のビール汗もそろそろ出切ったようだ。12:00、菖蒲着。ここからほんの少しの間国道405号を経由し、すぐに曲がって菖蒲放牧場から野々海峠を目指す。

 国道405号を曲がると、登り坂は急になる。
 この地方独特の習慣なのか、やはり水が張られた棚田の中の坂道をぐいぐいとひたすら登ってゆく。棚田の風景はいかにも田舎らしい美しさで、坂はきついが心が和む。
 この道には自動車はほとんど入ってこないようで、静かな細い坂道である。
 周囲に杉が見られなくなり、紅葉した木々の中にやはり黄色くなったカラマツが混じり始め、12:40、急に周囲に草原が広がり、菖蒲放牧場着。標高は700m位。

 尚も登りは続く。つづれ折りの道は低い森の中を登って行く。ふと後ろを見ると、おお!
 今まで登ってきた風景が見渡せるようになっている。こちらへ向けて次第に
 急になる斜面・棚田・紅葉の森・奥へと続いて行く集落・遠くは白く霞む山々…。周囲は標高600台〜400m位の山が大半なので、遠くのほうまで見渡すことができる。山びこが聞きたくなり、「おおーい!」と何度も叫んでしまった。

 道路がつづれ折りを描くようになり、別の林道と合流し、更に標高は上がる。坂は一向に緩くならず、むしろ激しくなって行く。まあそれでも32×23で登れるぐらいの坂で、あと26がまだ残っている。
 周囲の木々は更に低くなり、高さ3〜4mくらいの広葉樹となっていた。正面の山の上方は逆にかなり高い広葉樹(ブナか?)林で、紅葉というよりも、すでに完全に落葉しているようだ。激坂がつづれ折りになって、見上げる山の頂上の辺りまで続いているのも見える。コンクリートの擁壁上に間隔を置いて並べてある縁石(ガードの代わりか?手抜き!)が、何だか斜面の要塞のようだ。
 すでに標高は900mくらいまで登っていた。突如、カーブの陰から水色のランドナーが現れ、軽く挨拶を交わし、比較的ゆっくりと下っていった。

 坂を登り続ける。標高が上がり、いつの間にか周囲の広葉樹林には葉が無くなっていた。かなり高い木々の幹には、色とりどりの苔が生えていた。北側斜面を登っているわけだが、太陽が当たらないせいか、道路の脇に雪の解け残りが増えてきた。路面もなんとなくじとっとしていたり、乾いている部分は凍結しているようにも見える。
 一方、見通しは更に良くなっていた。周囲の景色は完全に「見下ろす」という位置関係になっており、さっき登ってきた一本道から見えた棚田が何だか模型のようだ。風景全体を占める木や草の細かいテクスチュアの中、空を映している棚田の水面がよく目立つ。結構厳しかった急坂の斜面も、上から眺めると走ってみたくなるような楽しい田園風景だ。谷や斜面だけでなく、周りの山の頂上もみんな見える。鮮やかな赤さはあまり見られないが、紅葉の黄色〜赤色と草色と杉の深緑がまだらになっている。
 風景に気を取られるていると、すぐに側溝に落ちそうになる。また、カーブの外側は、転落するとかなりやばいことになりそうな急斜面だ。そう感心してもいられない。

 最後のカーブを登り切ると、坂は急に緩くなった。フロントをアウターに入れ替える。前方の道路は途中から雪に覆われてしまっていた。雪道の少し向こうからは長野県だ。標高1100m弱、野々海峠の頂上に着いたのだ。県境からはダートが続くようだ。坂も下りになる。
 緩い下りを下り始めると、最初はそれでも轍の部分だけ雪が無かったのが、すべて雪に覆われる場所もあり、または轍に雪の解けた水が流れていたりする。峠を越えるとともに南斜面に出てきたため、雪に反射する太陽がまぶしい。しかし、とても寒い。
 やがて、すっかり落葉した林の向こうに、野々海池の静かな水面が見えてきた。穏やかな天気に湖面は静かで、もうすっかり冬の雰囲気だ。緩い下りを雪で滑らないように注意して下ってゆくが、ブレーキに掛けている指は冷えている。
 寒いが、茸を採っているらしい人もいる。

 14:00 野々海池着。ここから信濃白鳥方面へ降りようと思っていた。しかし、地図で見る限り、とても短い距離で一気に降りてしまうようだ。いくら何でも短すぎる。一方、ここから深坂峠を越え北側斜面に出る道は、地図で見る限りたいした登りではない。向こう側の山伏山経由で森宮野原へ降りてもあまり時間的には変わりなさそうだ。
 せっかく来たんだから、もう少しこの林道を走って深坂峠・山伏山経由で森宮野原に抜けることに決めた。
 道路もここから再び舗装になる。

 深坂峠の最後の坂を登り、頂を回り込む形で再び新潟県側の斜面に出る。
 カーブの向こうに、いきなり衝撃的な展望が!
 凄い凄い凄い凄い凄い!
 1000m以上から6・700m、更にそれ以下の丘陵地帯を障害物全く無しに、感覚としては空の上から見下ろしているような、そう、航空機から見下ろす感覚に似ている。地図からは予想できたはずだった。いや、こんな展望を経験したことがないので、度肝を抜かれた。
 山と谷が連続する変化に富んだ地形に展開している、牧草地・谷を下って行く道路・棚田や農村・紅葉・杉が、今にも盛り上がってくるように眼下に広がっている。赤や黄色の山も谷もくねくねとからみ合って、奥へと続いて行く。
 「す、凄え…

 す、凄え…」と、開いた口がふさがらないというか、言葉を失ったというか、辛うじてそればかりつぶやいていた。
 昨日登ってきた三方峠もほんの少し見える。天気のせいもあるかもしれないが、意外と近く見える。
 こっちへ来て本当に良かった。
 もう午後だからか遠くの山々は、白く霞みがかかって空の中に消えている。空は雲一つ無い快晴だ。しかし、北斜面には太陽が当たっていないようで、相変わらず路面は霜が解けたばかりのようにじっとり湿っている。まだ霜のままの箇所もある。下りとはいえ、あまり調子に乗ってスピードを上げるわけにはいかないようだ。

 道路は北斜面を200m程下り、もう一度ほんの少し登って南斜面に出る。北斜面を比較的ゆっくりと下っている間、大展望は角度を少しずつ変え、また手前の山々との位置関係が変わるので、絶えず変化に富んだ景色を見ることができる。まるで映画やアニメのように風景がゆっくりゆっくり動き、ジオラマのようだが立体感のある山や谷の風景に、人間の目が二つある事を実感する。
 下っているうちに、周囲の木々には紅葉が戻っていた。1000弱m付近がどうも秋と冬の境のようだ。気温もようやく少しずつ上がってきたような気もする。

 やがて、ほんの少し坂を登り、尾根を乗り越えて再び南斜面に出る。山伏山の曲り角を曲がると、いよいよ信濃川方面への下りが始まった。

 広葉樹やら杉の森の中を下って行くと、やはり突然南側への展望が開ける場所がある。こちら側も信濃川の谷まで斜面が一気に下っているだけなので、秋山郷方面への入り口となる、信濃川南岸の河岸段丘の開けた風景が見渡せる。魅力的な風景に、いずれあっち側を訪れることになるだろうと思った。
 標高差3・400mからの展望というのはとにかく豪快で圧倒的だ。
 池・牧場・森・紅葉・畑・造成中の棚田と次々と現れては過ぎて行く。例によって急カーブが多く狭い急坂なので、ブレーキレバーを握る指が痛くなってしまったが、それでもスピードを上げるのは恐い。しかし、あっという間に信濃川と国道117号が見えてきた。

 14:40 森宮野原着。すっかり輪行するつもりになって駅の時刻表を見ると、次の飯山線は16:40。2時間後である。
 これならバスで行ったほうが速いかもしれない。バスは…おっ、急行越後湯沢行きがあるぞ。時間は…14:45!?駅の脇に停まっているバスがそうなのだった。
 フォークを抜かなければならないランドナーは、いくらなんでも5分じゃばらせない。自走で十日町へ向かうしかなかった。なんとなくやる気が失せたが、うだうだしてても始まらないので国道117号を下り始めた。

 途中、遅い昼食を津南の道の駅で取り、16:05、十日町駅着。
 早速時刻表を見る。「特急はくたか越後湯沢行き 16:27」ゲッ!20分しかないでわないでわないか!
 速攻で自転車をばらし始める。しかし、ホーク抜き・フレーム保護シート取付・ヘッドライト外しなんてやっているとどうしても時間がかかる。フレーム・前後タイヤを括ったところで発車のタイフォンが悲しく(悲しく聞こえた)鳴り響いた。結局25分かかってしまった。
 なんか今日はこればっかだな、と思っていると、何か食わなければならないような気になってきた。駅前商店街をぶらつき、ほか弁のとんかつ弁当をゲットした。「早飯のとんかつ弁当」に高校生のころの早弁を思い出した。何故、とんかつ弁当は15年間、全国どこでも\500台なんだろうか、とも思った。
 16:30を過ぎると、空はどんどん暗くなっていった。

 17:23のほくほく線には、さっき野々海峠で出会ったランドナーらしい人が乗っていた(話さなかった)。

記 1998.11/19

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Last Update 2005.1/8
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