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赤は本日の経路 濃い灰色は既済経路と航路
ルートラボ

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 中通島-5・若松島-3 今里郷→若松郷 今里郷→神ノ浦→高井旅→奈良尾→佐尾分岐→白魚→若松郷 41km ルートラボ>https://yahoo.jp/1A2L5X

 辺りが明るくなってきた。宿の前、一見川に見える静かな水辺は今里湾の海面である。谷間一杯の入り江も向こう側の山も未だ濃紺の影の中だが、空は明るく晴れていて、春らしく淡いオレンジ色で一杯だ。
 気温はひんやりと肌寒い。これだと防寒着が必要だ。出発までにもう少し気温が上がっていて欲しい。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 中通島-5・若松島-3 今里郷→若松港 長崎県南松浦郡新上五島町今里郷 農家民宿かたやま前 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 朝食には鯛のお茶漬けが出た。ご飯に鯛の醤油漬けを乗せて海苔とごまをまぶしてお茶を掛けたもので、鯛もお茶も五島産とのこと。干物も美味しく、朝からご飯をがっつりいただけた。これで昼まで大丈夫である。
 7:00、今里郷「農家民宿かたやま」発。国道386を経由、対岸の三日ノ浦から中通島を横断し、東岸の神ノ浦へ向かう町道っぽい道へ。
 今里湾の入り江は、国道384の三日ノ浦橋を境に佐野原川となる。しかし三日ノ浦の集落が続く間、干潟っぽい洲が続いていた。水はすぐ淡水には替わらないのかもしれない。苔生した石が続く州では、サギが石をつついて朝食を摂っていた。サギは白くほっそりした姿だけ見れば一見優雅なようだが、実態は大変貪欲な生物で、水辺の生物を根こそぎ喰い尽くしてしまうという。大きな嘴で空からつつかれて人生終了、洲の生き物にとってサギの襲来は天災以外の何物でもないだろう。しかしそれが自然界の弱肉強食という奴である。そんな自然界を前に、私は10連休を使って今日も自転車ツーリングができている。
 集落が終わると共に谷間が狭くなり、両側の山、森が迫り、谷底は佐野原川と道だけになった。ここまでの五島列島では大変珍しく、普段のツーリングではごく普通の、山影の中の谷間遡上の風景だ。しかしまだ目立った登りは始まらない。

 間もなく辺りが拡がって、佐野原の集落が現れた。これもやはり中通島では大変珍しい、ごく普通の山間の里である。もう少し上手の三日ノ浦からどう考えてもあと60mぐらいは登って、標高100mぐらいの中通島の稜線を越えるはずなのだが、一向に峠区間が始まらない。と思っていると、集落一番奥の家の手前から、いきなり唐突に15%位の登りが始まった。まあ、いつもの通りではある。
 峠では岩場の隙間をくるっと向こう側に回り込んで中通島東岸へ。これも唐突に、そして想像してはいたが、一気に山に囲まれた狭い谷間が見通せた。そう高くはないものの、中通島南部の稜線が険しく聳え、東岸に落ち込んでいた。道は濃密にもこもこと木々が生い茂った、彫りの深い谷間を急降下してゆく。すぐに神ノ浦の漁港が眼下、いや、谷の正面に見え始めた。

 港に自転車を停め、とりあえず見つけた自販機で缶コーヒー休憩とする。高く上がった朝日に照らされた、静かな漁村に、東岸に来ることにして良かったと思う。一方で、あまりこういう風景に見入っていると10時半の若松港フェリーオーシャンには確実に遅れるだろうな、とは思う。まあそれも仕方無い。景色がいいのは望むところだし、せっかく晴れているのに、こういう風景を見逃しては本末転倒である。今日の夕食前に風呂に入れないというだけのことだ。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 中通島-5・若松島-3 今里郷→若松港 長崎県南松浦郡新上五島町東神ノ浦郷神ノ浦 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 バスが港をぐるっと通り過ぎていった。奈良尾行きの西肥バスだった。青方の西肥バスターミナルを思い出す。いざとなったら奈良尾港の時間を調べて、バス輪行してしまっても悪くないな。しかし奈良尾港発の福江港行きは、確か自転車が載せられない九州汽船の高速船だったっけ。

 神ノ浦から、道は県道22となる。県道22は有川から峠を2つ越えて神ノ浦に降りてくる道で、雨で終日運休になった4/30に、有川から訪問するはずだった。
 漁港の外れから早くも、県道22は中通島の稜線へ登り始める。神ノ浦港と対岸を見下ろし、尾根を巻いてまだ90m。更に180mの稜線を目指して登ってゆく。さすが中通島南部だ。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 中通島-5・若松島-3 今里郷→若松港 長崎県南松浦郡新上五島町東神ノ浦郷神ノ浦 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 対岸に、山の形が変わるほどの採石場が見えた。斜面に穿たれた段が、遠目にはやや草生しているようにも見える。交通量は少なく教会も無く、一般的な観光ネタは何も無いこの場所で、かなり大規模の採掘が行われている。まあこういう事例は秩父の武甲山でも見慣れてはいる。五島列島では、美しい風景の隣で当たり前のように、人の営みの為せる事柄が同居する場所が多いようにも見える。それは人が少ないことと、あまり他人が構わない場所であることが理由なのかもしれない。
 岬を巻いて更に稜線へ登る途中、眼下の断崖下に漁港が見えた。船隠である。斜面が急なので海岸の漁村は見えず、辛うじて漁港だけが見えている。漁港には車が何台か停まっていた。さっきの神ノ浦の静かな漁港を思い出す。もしかしたら船隠は、神ノ浦より賑やかな漁港なのかもしれない。続いて海岸へ急降下する道の分岐も現れた。船隠に立ち寄るようなGPSトラックがGPS画面に現れてはいるのだが、あそこまで下って登り返さなくてならない。若松10時半を有り難く大義名分として、通過することにする。

 県道22は160mまでぐいぐい登った後、稜線を越えて一旦西側斜面へ移った。標高は低くても稜線は稜線であり、この切り立った中通島の稜線を西へ東へと、凄い道である。
 最高地点は約180m。最高地点近くでは、またもや東岸の浜串への分岐があった。地形図だと浜串はややまとまった規模の集落として描かれている。道端の看板によると教会もあるようだ。見下ろす入り江には後浜串、浜串の漁村と漁港が見えている。海のしぶきなのか光線の具合か、入り江の中は少し霞んでいるようにも見える。ツーリングを標榜する以上、あそこには行っといた方が良いんだろうなあとも思う。しかしここも大義名分と言い訳にまみれながら通過してしまう。
 再び稜線を越え、東側斜面を急降下開始。途中の登り返しには、この道には珍しく福見峠の名前が付いている。ここにも海岸の岩瀬浦への分岐があったものの、もう当然のように通過してしまった。こんな1周系ツーリングになってしまっていいのかとは思うものの、こういう所へ行くべきだったのは4/29と30であり、その2日は雨で大幅運休になってしまった。
 今日は今日の予定を進めるべき、という立場で気を取り直して現在位置を見直してみると、中通島南部に脚を進めつつある今の段階で、まだ8時半になっていない。ひょっとすると若松10時半は間に合うかもしれないと思い始めた。
 ならば今の所は、あまり悩まず迷うこと無く、先を目指しておこう。

 8:40、高井旅通過。入り江の奥の陸地に小中学校と教会が、明るい日差しに照らされていた。今日も陽が高く昇りつつあるのだ。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 中通島-5・若松島-3 今里郷→若松港 長崎県南松浦郡新上五島町奈良尾郷高井旅 県道22 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 高井旅の先で国道384に合流し、再び90mまで登って下る。かなり岸が切り立っているこの辺りで時間を喰うと、若松10時半が危うくなるかもしれない。
 国道394に替わってから、道幅はそれほど広くないものの、道の表情がやはりどこか国道っぽい。海の眺め、道端の森や茂みの雰囲気とも、県道22に比べて居所に困るような気がする。
 奈良尾郷はさすが中通島南端だけあり、やや大きな奈良尾港がある小奈良尾と、市街地と漁港っぽい小さな港がある奈良尾が岬の丘を挟んで分かれている。国道394は奈良尾港の山裾を、飛び越すように通過してゆく。港の規模はなかなか大きく、見下ろす広い波止場が印象的だ。さすがに高速船が着く港だけのことはある。

 国道384は奈良尾から先、福江島まで航路となる。国道384が奈良尾へ下って行く途中、県道203が分岐して、奈良尾の町を見下ろしながら中通島南部へ向かってゆく。
 奈良尾の港町は、狭い湾にぐるっと、切り立つ急斜面を駆け上がるように民家が張り付いている。特に下手の市街地はぎしっと高密だ。学校か公共施設なのか、ハリウッド・ボウルとシドニー・オペラハウスを足して2で割って思い切り小型化したような形の屋外ステージもあり、またもや眼下の風景に立ち寄れなくてやや残念な気にさせられた。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 中通島-5・若松島-3 今里郷→若松港 長崎県南松浦郡新上五島町奈良尾郷先小路 県道203 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 中通島最南部周回区間への登りが始まっていた。民家脇の自販機でコーヒーを飲んでおく。小奈良尾通過の段階で8:50のがもう9時過ぎ。高井旅までいいペースだったように思っていたけど、若松10時半はもう無理かもしれない。こんなことなら、最初から土井ノ浦13時50分を目指して、いろいろ立ち寄っても良かったかもしれない。まあ、走っているのは自分なんだし、寄り道対象区間の省略も全部納得づくだ。焦らずにもう一登りをのんびり落ちついて楽しもう。

 奈良尾を過ぎると道はかなり狭くなり、道両側の森がもこもこと背を伸ばし始めた。木々の間には明るい色の海がちらちら見える。未だ若松10時半が完全に諦めきれずにやや気は急くものの、道自体はとても楽しい。
 南下していたGPS画面のトラックがおもむろに西を向き始め、佐尾への分岐が現れた。佐尾は周回道より更に南に位置する漁港の集落だ。教会もある。奈良尾から辿ってきた県道203は佐尾へ下ってゆく道であり、佐尾から中通島西岸へ向かう道は林道となる。そういう位置づけの集落なのだろう。
 地形図では、標高130mの分岐点から、例によってかなり切り立って入り組んだ斜面をくちゃくちゃに急降下する県道203と、入り江のやや大きな漁村が描かれている。計画時には「ここは行かねば」と思っていた。中通島最南の周回道から更に南の集落は、何だかジャンプ漫画の最強の敵を倒した後の更なる最強の敵、そんな場所のような気がしていた。ならば中通島の行程を終えるには、佐尾に行くべきだ。津和崎灯台にも行ったのだし。
 時計を見ると9:20。最高地点の尾之上峠まであと30m残しているだけの状態で、よく考えると若松まで1時間以上ある。
 何だ、これなら若松には間に合うんじゃないか、と気が付いた。やや気が急いていて、残りの行程を何か思い違いしていたようだった。奈良尾周辺で意外に時間が掛かったこと、やたらと等高線が詰まったこの辺りのt計図で、更に焦っていたかもしれない。
 しかし、若松10時半を目指すなら佐尾に立ち寄っている時間は無いだろう。結局は若松という大義名分で、130m登りを省略しただけだったかもしれない。しかしこの後、福江島で余裕ができたお陰で夕方の大瀬崎に立ち寄れ、翌日の行程にも余裕ができたのは、間違いなくいいことだったとも思う。

 当然のように10%以上の登りが続いたが、GPSトラックはおもむろに西を向き始め、そして完全に北向きへと回り込み始めた。こうなるといよいよ中通島西岸である。
 一旦欺し峠のように下りがあって再び少し登り返し、9:30、尾之上峠着。もう後は大した登りは無いはずだ。この段階でやっと、若松に行けるという気がしてきた。あと1時間、いや、切符と乗船時間を見込んで55分。未だ見込みはぎりぎりではあるものの、ぼんやりした目論見の形が実態になり始めてきた。
 尾之上峠の山道分岐には、何と堂々たるニワトリがいてちょっとどぎまぎした。キジではなく、黒々と艶やかな毛並みの、堂々たる大型のニワトリなのである。恐らくどこかの農家から逃げ出したのかもしれない。

 下りでも、ここまで同様の細道がくねくねの急斜面に張り付いて続いた。斜度は当然の如く10%基調だろう。頭上の開けた東岸と違い、密な枝の木々が道を覆うジャングル状態だった。斜面が更に切り立っている分、時々海側の木々が開け、真っ青な海と遠くに霞む奈留島、そして行く手の斜面の森を眺めることができた。
 急下りの急カーブで転倒すると、狭い道から飛び出しそうだ。気を付けてゆっくり目に下ったものの、海岸まで下りきって時計を見ると9:45。俄然若松10:30フェリーの確度が高まってきた。

 その後は海岸際に細道が続いた。真っ青な空から明るい光が、若松瀬戸と小島を明るく照らし、浅瀬の海は透明なのに、近くから遠くへほんのり青く色付いてゆく。島もこちらの陸地も、緑も岩も海も空も、色彩が濃厚で鮮やかだった。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 中通島-5・若松島-3 今里郷→若松港 長崎県南松浦郡新上五島町桐古里郷桐 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 桐、横瀬、深浦と漁村と森が断続し、海岸を曲がりくねる道の風景はどんどん変わっていった。海には漁村が通り過ぎ、道端では漁村の住民が家族で釣りを楽しんでいた。ここまで眺めてきた、険しい表情の大空間とは全く違う、楽しく優しい人里の風景に心が和む。こういう風景が見たかった。そしてこういう風景を前に、今こそ行程の稼ぎ処なのがややつらい。

 深浦、築地からは小さい岬越えが続き始めた。ほんとに小さな登り返しでも、その度にペースが落ちて分単位で時間を喰った。しかし10時ちょうどに県道46に合流することができた。これはもう行けるぞ行けるぞ。

 10:10前、若松大橋通過。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 中通島-5・若松島-3 今里郷→若松港 長崎県南松浦郡新上五島町若松郷 県道46 若松大橋 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 中通島-5・若松島-3 今里郷→若松港 長崎県南松浦郡新上五島町若松郷 県道46 若松大橋 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 橋の上で一昨日眺めた若松瀬戸の風景を、北側、南側ともう一度眺めて若松島へ。
 10:15、若松ターミナル着。到着してみれば、フェリーの時刻まであと15分もある。理想的だ。おれもやればできるのだと思った。すぐに窓口へ、荷物受取証を書いて切符を買う。何日か前福江島と奈留島で書いた、五島旅客船書式が懐かしい。あれから何日かの間に海上タクシーも乗った今、今回は担ぎ上げじゃなくていいのが嬉しい。
 フェリーターミナルの売店では食事もできるようで、定食が美味しそうだ。今日は流石に定食を食べている余裕は無いので、魚肉の揚げ物パックを買っておく。これがまた、雨の日に青方で買った奈摩の揚げ物との再会となった。
 中通島か、何もかも皆懐かしい。何だか船ならではの良い気分だ。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 中通島-5・若松島-3 今里郷→若松港 長崎県南松浦郡新上五島町若松郷 若松ターミナル フェリーオーシャン乗船 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 10:30、フェリーオーシャン若松港発。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 中通島-5・若松島-3 今里郷→若松港 長崎県南松浦郡新上五島町若松郷 若松港出発 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 中通島-5・若松島-3 今里郷→若松港 長崎県南松浦郡新上五島町若松郷 若松大橋へ #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 中通島→若松島 長崎県南松浦郡新上五島町若松郷 若松大橋通過 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
 RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成  RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成  RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成  RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成  RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成

 さっき渡った若松大橋をくぐって、さっき通った岸辺や、尾之上峠からの下りを眺めつつ、フェリーオーシャンは明るく色彩濃厚な若松瀬戸を南下してゆく。中通島、若松島ともお別れだ。
 船が若松瀬戸を抜けると、奈留島が現れた。その向こうには久賀島、そして福江島が現れ始めた。見覚えのある鬼岳が、遠景のシルエットでも違う色で見えていた。今回の旅も後半へと推移するのだ。
 11:20に奈留着、10分停船で11:30奈留発。その後は久賀島と福江島、鬼岳と福江の街がぐんぐん近づいてきた。もっと手前には、初日に訪れた堂崎教会や、赤い戸岐大橋がよく見える。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江→玉之浦 福江→猪掛峠→荒川→大宝→玉之浦→大瀬山→玉之浦 49km ルートラボ>https://yahoo.jp/Tx0goO

 12:15、福江港着。
 船の壁が向こうに倒れてそのままで渡り板となり、そこを渡って福江島に上陸。交通機関の次は輪行作業と身体に染みついてるためか、更にそのまま進んで港の道をてれてれ流すのも何だか手持ち無沙汰で違和感がある。もちろんお手軽なことに全く不満は無い。楽しんでしまえばいいことだ。
 港に面するいくつかの食堂の前を流して、徒然と街中へ。確たる目的地があるわけじゃない。何となく旅を自分のものと感じられるような体験がしたいだけなのかもしれない、等と他人事のように思う。もう少し事前調査して、「男はつらいよ」で出てきた食堂の跡を探してもよかった。五島が舞台となっていることは知っていたのだから。しかしそこまで狙い定めて、力一杯旅している訳でもないのである。
 福江の街中には、五島列島唯一のアーケード商店街がある。その実態はシャッター街となっていて、あまり目新しいものは無い。それは他の地方都市と全く同じだ。かと言って港前の食堂に戻るのもためらわれた。周囲の状況とは無関係に、お昼になってそれなりに腹が減った気がし始めていた。今日はこの先福江島を東西に横断するので、それなり以上に何か腹に入れておく必要はある。しかも、あまりカロリーを気にせずに。こういうチャンスに限って何も無い、おれの人生よ。しかし実際には、食べなくても意外に過ごせてしまうかもしれない。初日のように。所詮玉之浦まで40km、獲得標高差400m台だ。
 何も見つけられらず、自分の居場所にすら困るような気持ちで、徒然とアーケード街を抜けてゆく。いつかアーケード街を抜けて、更に何も無くなるな。気が付くと、目の前に男子高校生っぽい3人組が道を横断していた。ラフな運動着っぽい格好でスポーツバッグを担いで、或いは午前部活の帰りなのかもしれない。文化部だった自分の高校時代、休日の部活の後お昼に町を歩く状況とはどのような場合だったか、高校時代の自分がどれだけ果てしなく昼飯を食べていたかを思い出し、今、自分の昼食場所選択を任せるのに彼ら以上に適任はいないと直感した。これが大当りだった。
「すみません。つかぬ事を伺いますが飯屋を紹介して下さい」
「飯屋ですか。そうですね。…安さに拘りますか?」
「…いえ、敢えて言えば拘りません!」
「じゃ、望月がいいですよ。お肉主体です」
「肉ですか、いいですね!どの辺でしょうか」
「ここから1kmぐらいです」
「1km!街の外ですか?」
「いえいえ、じゃもっと近いです。すぐ近くですよ」
などという会話があって、結論から言えば「望月」はすぐ見つかった。
 かなりさりげない、知らなかったら絶対入らないと思う木造モルタル家屋に、やや入りづらい戸建住宅のようなガラス引き戸の店構えの店内は、お昼のためかやや混んでいた。店内にもメニューの一番目立つ場所にも「五島牛ステーキ」、これこそ一番探していたものだったかもしれない。
 五島牛ロースステーキ200g¥5200を超レアでお願いした。やや値段は張るものの、今こそ旅にメリハリを付ける時だと確信していた。果たして本格的五島牛ステーキは、レアだが生っぽくなく、霜降りっぽいんだが油臭さが無く、とろけるように柔らかくまろやかで豊かな味わいだった。大変価値があったと思えた。明後日、福江島最後の夕食は絶対にここにしよう。

 13:05 福江発。4/27に福江に着いてはいても、福江の市街地から走り始めるのは初めてだ。何だかこれも不思議に新鮮な気分である。
 福江島の横断は県道27へ。初日に林道の猪掛峠を越えているので、今日は現県道の猪掛トンネルでいいかなとも思ったものの、福江郊外だと県道27の交通量がやはり耐え難いほど多い。それに猪掛トンネルの新道との標高差はたった50mぐらい。というわけで、猪掛峠への林道へ分岐。
 木漏れ日の静かな路上に、透明な羽のカワトンボがひらひら、黒に黄色い模様が目立つサナエトンボもびゅんと飛び回っていた。曲がり角の草花には、黒系アゲハ、アサギマダラ、タテハチョウなどが飛び、森の中からウグイス、ホトトギスの声が響き渡るのも初日と同じ。斜度緩々の楽しい道だ。多分3度目があったら、またこちらに来るだろう。
 下りもブレーキをあまりかけないぐらいで下れる、細道の程良い斜度でくねくね徒然に。

 初日に大曲へ分岐した雨通宿で、今日は県道27へ。再び谷間を登り始めた県道27に、下りじゃないのかと川の流れ方向を確認しても、間違いなく登りである。岐宿の盆地へはもう一山あるのだった。山間にやや開けた谷間の後、5〜6%位のゆるっとした登りでそう高くない丘を越え、今度こそ岐宿の広い盆地の中へ。
 お昼過ぎの眩しい光の中、山に囲まれて畑が拡がる盆地の中心では、県道27と県道31がそれぞれ一直線に直行していた。全く海の香りがしない、内陸ならではの風景だ。普段のツーリングならこういう所にコンビニがあるのだが、等と思いながら目に付いた自販機でとりあえず休憩しておく。そう言えば、今回のツーリングではまだ福江周辺でしかコンビニを見かけていない。
 交差点から再び盆地の西側縁へ、80m程登り返しが始まった。普通に県道っぽい幅の道は、車は殆ど来ないのがありがたい。
 七ッ岳登山口を過ぎると道が下り初めた。そういえば北側に、つんととんがった山が見える。あれが七ッ岳か。 狭い谷間の下りが落ちつき、次第に拡がって行く手に山が無くなって川幅が拡がり、福江島西岸が姿を現した。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町荒川 国道384 荒川漁港 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 14:30、荒川着。切り立つ山に挟まれた狭い湾、その先唐突に拡がった海の奥行と色の濃さ、眩しい光で一杯の空を前に、ちょっと脚を停めてみる。間髪を入れずに国道384を、DHバーを付けたトラ系ロードバイクが、後輪ディスクホイールのごーっいう音とともに高速で1台、また1台。何台か通過していった。福江島では明らかにスポーツ系自転車乗りをよく見かける。他の島では中通島でツーリングっぽい女性を一人見かけただけだった。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町荒川 国道384 荒川漁港 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 国道384は切り立った海岸際に、布浦、河原浦と小さい漁港を繋ぎ、湾と湾の間の半島を越えて南下してゆく。連日のことながら、今日も天気は絶好調。傾き始めた日差しが眩しく、赤味を帯び始めた日差しの中で緑も青も鮮やかで凄い色だ。比較的近い島々が黄砂で霞んでシルエット気味なのも昨日と同じである。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町荒川 国道384 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 岩場の漁村、河口の平地の畑。道端には次々と、小さく静かな生活感が断続していた。海上の比較的近い対岸には常に向こうの陸地が、その奥には時々島山島が現れた。小さな岬を回って道の向きが変わるにつれ、湾の風景は刻一刻と替わり続けたが、対岸の陸地や島は、ことごとく無人である。岸辺のどこかに漁村が見え始めないと、まだ今日の宿には近づいていない。
 まだまだ進まなければならないのに、海岸の景色に脚がしょっちゅう停められている。国道なのに、さすがは日本の道100選だ。
 15:00、トンネル迂回でたまたま回ってみた中須に、商店と自販機を発見。海岸の写真を撮ってから水分補給していると、店の中から声を掛けられた。店のおばさんがお得意さんっぽい建設技術者っぽい方とお話ししていたようで、私もお邪魔させていただき、少しいつものツーリング中のお話しをする。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町中須 国道384 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町小南 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 中須の南では、ツーリストのグループが挨拶してくれて通り過ぎていった。福江発を約1時間半早めた余裕のお陰で、とても楽しい行程になっていた。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町小南 国道384 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町大宝 国道384 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町大宝 国道384 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 大宝で国道384から県道50へ。玉之浦まであと8km。
 細長く湾曲して入り組んだ半島と玉之浦湾の海岸と、陸地を登ったり下ったり。途中、戸町切に60mぐらいの登りが地形図に描かれていて覚悟していたが、そこにはあっさりと玉之浦トンネルというトンネルができていた。事程左様に1/5万は情報が古い。
 玉之浦トンネルを抜けると、静かな内海の井持浦沿いにもう井持から玉之浦への漁村が見え始めた。赤みを帯びた日差しが、静かな井持浦を鮮やかに濃厚に彩り、なかなか脚が進まない。しかし遠目に見てもやや新しめの井持浦教会は、この際通過させていただく。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町井持浦 県道50 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 6:10、井持着。玉之浦とは蛭子崎を挟んで一続きの集落であり、もうほぼ玉之浦到着に近い状態だ。多分16:20には確実に宿に着けるだろう。結局これだけゆっくりしても、福江からぎりぎり3時間。当初の目論見通りだったのが嬉しく、せっかく中通島の行程を前倒ししてきたのに、何だかやや拍子抜けでもある。いや、宿の夕食時刻18時に間に合うかどうか心配しながらの3時間とは、やはり質的に全く違うツーリングができたと考えるべきだ。
 それにしても夕食まであと2時間。いや、もう行程も7日目だからこれでいいのだ。風呂に入ってゆっくりしよう。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町井持 県道50 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 等と考えていると、道端に「大瀬崎3km」との看板が現れた。大瀬崎には明日行く予定だ。標高差200m超で3kmか。今なら、大瀬崎へ行って帰ってきても、せいぜい17時過ぎだろう。そして明日の朝、天気予報通りに晴れると限らないのは、ここまでのツーリングの通りだ。むしろ明日云々ではなく、西向きの大瀬崎は晴れている夕方の今、立寄るチャンスなのではないか。しかし標高差200m以上。事前のストリートビュー調査では、確かかなり厳しそうな坂だったぞ。どうする。

 などと悩ましいのは一瞬、やはり大瀬崎へ登ることにした。取付の急坂で高度がすぐ上がり、すぐに斜度は一段落。日差しが傾いてすっかり山影の中に入ってしまった東側斜面から、まだ日なたの中で眩しいほど明るい井持浦を真下に見下ろしつつ、淡々と登りが続いた。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町井持浦 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 地図上の距離で最後の1/3強ぐらい、標高80m以上から、道は再びぐいぐい登り始めた。10%を軽く越える、かなりの激坂だ。上の方からロード乗りが下りが嬉しそうに下って来た。そりゃ嬉しいだろう。道が尾根を巻いて東側から西側斜面へ移ると、ガードレールの外は底が見えない開けた急斜面となり、日差し一杯の空中から100m下の海まで大空間が立ちはだかった。自分の高さが怖ろしく、海を見下ろさなくても道の外に顔を向けるだけで心許ない。よくこんな所が車道になったな。
 駐車場と展望台を過ぎ、道の最高地点まで登ってみた。標高220m。一応車道の先端、ストリートビュー予習で見覚えがある灯台への入口だけ眺めておく。ここから灯台までは標高差100mぐらい、徒歩で下る必要がある。 こういうのに立ち寄るためには、自転車行程だけ考えていてはいけないのだ。いや、時間のせいではなく、怖ろしさでお腹いっぱいになってしまっていた。

 折り返して16:50、展望台着。まだ陽差しは夕陽という程低くないが、充分に赤っぽい。赤い直射日光をまともに反射した東シナ海の中へ、シルエット気味になった大瀬崎が突き出していた。
 巨大な岩の柱が集まって海面から飛び出し垂直に立ち上がり、樹木は岩のてっぺんにしか生えていない。てっぺんが先へ下ってゆき、一番先に灯台が小さく見えた。あそこまで100m、徒歩で下るのだ。
 そしてこちら側の岸と大瀬崎の岩が海と空を挟み付け、上下に拡がった空間。急斜面の底は見えないものの、柵が無ければ、いや、柵があっても、例によって海を見下ろすのすら怖ろしい。眩しさ、空間ボリュームの迫力、濃厚な物質感、そして怖さで、風景を長い間直視したくないほどの迫力だ。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町大瀬山 大瀬崎展望台 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 宿の夕食までまだあと1時間ぐらい。この風景を眺めながら、日が落ちるのを待つべきなのかもしれない。しかし風はどんどん冷たくなっている。風やちょっとの寒さなんて雨具を着れば凌げるのだが、もう満足してしまっている。それ以上に風呂に入りたい。こういう時、結局私は意外にすぐ下り始めてしまうのであった。
 でもこの際、少し下の大瀬崎駐車場にも寄っておく。

 RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成  RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成  RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成  RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成  RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成  RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成  RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成  RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成  RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成  RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成  RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成

 さっきは西側の大瀬崎を見下ろしていたのが、こちらは南側、少し遠くのオゴ瀬、赤瀬である。相変わらず海から高く立ち上がった白っぽい断崖。巨大な岩を巨大な力ですぱっと割ったような、力尽くの岸壁が、海のしぶきで霞みながら遠くへ続いていた。外側は真っ青な東シナ海。もう少し北側に振り返って見下ろせる、さっきまでいた井持浦の、静かな内海の風景からは全くかけ離れた味わいだ。どっちも素晴らしい。やはり今この時間に、ここまで来て良かった。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町大瀬山 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 下るのはあっという間だった。そのまま海岸沿いに玉之浦へ。海の向こうの島と島の間に、やっと大きな橋のシルエットが見え始めた。玉之浦から日ノ島へ渡る橋だろう。玉之浦へ行ったら、日ノ島には是非訪れておきたい。どうせ橋を渡って向こう岸に集落があるだけなのだが。でも明日にしよう。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町玉之浦 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 17:15、民宿たまのうら着。漁村がぐるっと取り囲む入り江の、静かな玉之浦港に面する小綺麗な宿である。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町玉之浦 玉之浦港 民宿たまのうら前 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 女将さんには今日は他に他に自転車3名だと言われた。自転車乗りの中では私が一番到着が早く、風呂も洗濯も最初にできたのは有り難かった。
 3名のお客さんは佐賀のロードバイク乗りの方で、とても気さくな方で夕食時には話しかけていただき、時間があっという間に過ぎた。

 RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成

記 2019/6/15

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Last Update 2019/6/30
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