2003.6/8
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大野原→(県道36)新倉 |
アラームが鳴って飛び起きる。3:30。まだ真っ暗だが、CASATIさんとすずさんはもうすでに起きている。
昨日土砂降りだった雷雨はどうなってるだろう。もし雨が続けば、あっけなく撤退であっさりとバスで身延へ向かうことになる。しかし、CASATIさんが窓を開けて、「星が見えるよ」と教えてくれた。晴れたのだ!昨日1日じゅう空に拡がっていた雲はすっかり消えていた。
そそくさと準備を終え、昨日作ってもらったおにぎりを1つ食べながら待機。明るくなってきたタイミングを見計らって、4:20ヘルシー美里を出発する。昨日も通った新倉の集落を過ぎて旧道でトンネルを大回り、再び合流したところから、転付峠への林道へ入る。
山サイ研ガイドブックだと「10%はあるかと思われる坂が続く」という表現だったこの林道は、実際に登ってみると、緩い箇所で10%ぐらい、時々15%にも達するかもしれないぐらいのコンクリート舗装の激登りが続く。
周囲はすっかり明るくなっていた。谷が狭いので、木々が道に迫るような箇所が多い。坂は厳しいが、早朝の森の空気は冷んやり気持ちいい。登りっぱなだが早くも防寒のウインドブレーカーをしまう。
木が切れた隙間から見える頭上の空は真っ青だ。昨夜の雨で曇りが完全に一掃されたようで、この分だと峠からの富士山や南アルプスの眺めを期待してしまう。この厳しい登りで、すずさんがぐいぐい先行する。「長い間憧れの場所だった」と言い切る転付峠への道、かなり気合いが入っているようだ。
谷底からつづら折れで高度を上げたと思いきや、再び谷底の沢が登ってきて追いつかれるというのが何回かあって、やがて木々の間にクリーム色の建物が見えてきた。広河原の発電所である。その脇を過ぎほんの少し登ったところで、茂みの中へ下って行く山道と、「転付峠」の看板が見えた。
5:30、いよいよ沢沿いの押し区間に突入。
以前CASATIさんに写真で見せてもらった、くり抜かれたようにオーバーハングする岩をくぐる道が意外にもかなり手前にあり、その先、沢は更に狭くなった。
切り立った岩に挟まれた沢沿いに、シングルトラックと呼ぶにはあまりに荒々しい狭い道が延々と続く。岩場、木道、鉄骨仮設材の橋、周囲には、迫り来る岩、昨日の雨の水が残っているのか、むせ返るような瑞々しい木々の緑、したたり落ちる水滴、しぶきがかかるように勢いがある沢、とにかく強烈な表情の道である。巨大な岩石や大規模な崩落も随所に見られる。
岩に張り付くような道の表情は厳しいが、山深い沢はこよなく美しい。ふと見上げると、青みの濃い緑の広葉樹の合間に見える空が青い。やがて太陽が次第に昇ってきたためか、木々の間から赤みを帯びた陽差しが、道の周りを照らすようになった。
岩場を梯子でよじ登ったり、滑りそうな丸太の上を渡ったり、「ほとんど押しで行ける」というより「担ぎ押し半々」ぐらい。読んだり聞いたり、CASATIさんの写真で想像していたのとちょっと違う。明らかに昔より道が荒れているようだ。
8:10過ぎ、唐突に木々が開けて、ようやく東電小屋に到着。
斜面に作られたほんの少しの土手に、小さなプレハブ小屋が2つ置かれているだけの場所である。今は人はいないようだったが、低木に掛けられた洗濯物に湧き水で冷やしてある洗面器のビールが、生活感ぶりぶりである。
少し開けているだけあって、多少見晴らしはいい。これから向かう稜線がちらちら見える。が、え、あんな高いところなの、という気がして、あまり直視する気にならない。何しろ今まで押しでは400mしか登ってないのに、これからまだ700m登るのである。地図を見直して「いや、距離はもうすぐだから」等と思うが、CASATIさんが作って持ってきてくれたプロフィールマップの斜度の変化は、これからの現実を思い知らせてくれる。
青い空の中には、何か水蒸気の反射のような白さを感じるようになっていた。梅雨時の初夏という季節柄、晴れとはいえ景色が多少ガスっぽくなるのは、止むを得ないのかもしれない。
しばらくおにぎり休憩後、8:25過ぎに出発。
青々とした広葉樹林の斜面を、小さくなった沢につかず離れずで、更に厳しくなった登りが続く。木の根、倒木、大きな石の間を進むのに、担ぎが次第に増えてきた。
9:30、斜面のつづら折れ区間に突入。地図上で沢に沿った区間が終わり、最後の急斜面が始まったのだ。最後とはいえ、ここからが標高差500m以上の本格的な担ぎ区間なのだ。
谷底から斜面をつづら折れで登る道は、今までより更に斜度が増し、その分ぐいぐい標高を上げてゆく。登るにつれ、沢の音が次第に下方の木の中に消え、鳥の声が良く聞こえるようになる。木々の隙間からは、青空と、見上げていたはずの周囲の山が、次第に正対して見えてきた。
広葉樹林とカラマツの植林帯の間、道は延々と登り続ける。今朝出発した早川の谷の山々も、青いシルエットで見えてきた。空には相変わらず雲は無かったが、澄みきった空気という程ではなく、やはり多少ガスっぽい。
鳥の声、ヒメハルゼミの声、青々とした木々、遠くのチェーンソーの音、そして山肌の大崩落。いろいろと見所はあるが、とにかく長い登りだ。でもまあ、静かな林の中、青緑の木漏れ陽に包まれ、鳥の声を聞きながら時々足を休めるのが、とても楽しい。
「駅で輪行するときの袋の中を担いで登ってるんだから、重いわけだよね」
「でも、駅の階段で標高差1000m以上なんて言ったら、絶対登れないぞ」
「まあとにかく、あと10年は来たくないね」
と、そんな話題で会話が盛り上がる。
GPSの高度を眺めながら、あと300mが200mになり、やがてあと100mになった。だいぶ標高が上がったためか、気が付くと、空気は涼しく、周囲は陽射しが透けるような明るいカラマツ林になっていた。CASATIさんが発見した高山植物の白い花を眺めたり、山サイ研ガイドブックで有名な水場で美味しい水を補給したりしながら、12:10、転付峠着。
峠に着いてみると、霞と雲で結局富士山は見えない。が、反対側の木々の間には空の中に巨大な南アルプスがくっきり。逞しく力強い白黒の斑の山肌に、最初は「また高地さんの咆哮が聞けるのかな」等とクールな態度をとっていた2人も、しっかり声を上げて喜んでいる。
でも、頂の辺りにはどす黒い雲が。その雲があっという間に押し寄せて、あんなに晴れていた空が暗くなってきた。あまり長居せずに、下ることにした。
12:30、転付峠発。
いかにも南アルプスらしい原生林の中のつづら折れで、標高差700m弱ぐらいを下る。下り始めて間もなく木々が切れ、間近に残雪の南アルプスが立ちはだかるが、それ以降は木々の間からちらちら周囲が見えるぐらいに木が詰まった森の中の道だ。最初は担ぎと押しで道を下る感じだったが、何とかおっかなびっくり乗れる区間が次第に増え、ガイド通りの1時間弱で二軒小屋に到着。
到着直前、二軒小屋の白い屋根が木々の間に見え始めたころ、私の前輪がパンクしてしまったのに気が付いた。あと少しなので、下りきって2軒小屋の周辺で修理することにする。
林から出ると頭上と周囲が開けた。天気はもうすっかり薄曇りになっている。
二軒小屋は、山小屋と言うより、なかなか豪華そうなロッジだ。
「あれがシベリア抑留施設風の自炊小屋。」
と、脇の山小屋風の建物を指さして、CASATIさんが教えてくれた。
すずさんとCASATIさんは、人気の無い二軒小屋へ飲料の自販機を物色に行った。その間にパンクの修理を始めると、昨日の裂け目に加え、もう1ヶ所裂けている。空気が抜けてから、さっきの山小屋手前の最後の下りで切ったのかもしれない。昨日よりも傷は長かったが、昨日と同じく裏の布は切れていなかったので、タイヤの裏にパンク用のパッチを張り付けて応急処置にした。とにかくこれで下らないといけない。
記 2003.6/26
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Last Update 2003.7/6