渋川→(県道33号)伊香保→(北榛名山林道)深沢 |
|
連休中どうも出勤になりそうで、ランドナーオフはあきらめたのだが、いざ連休が近づくと、9日の月曜出れば何とかなりそうな雰囲気になった。
そこで、残りの2日で前から興味があった野反湖・魚野川水平歩道へ行くことにした。
8:09、渋川に到着。駅前広場に輪行袋と荷物を店開きする。
青空のずっと端にちょこちょこと白い雲がちぎれている。日なたの太陽がまぶしい位のなかなかの晴天だが、関東平野も北寄りの渋川だけあって日陰はきりっと寒い。自転車を組み立てていてウインドブレーカーを着込みたくなる程だ。しかし、走り出すと汗もかくので、今日の服はTシャツにポロで大丈夫だろうとは思う。
いろいろ用を足し、8:30、渋川発。
町中から早くも始まっていた緩い登りは、町外れの交差点からいよいよ本格的になった。激坂ではないが、勾配に緩急というものが無い。登った先の道の向こう、坂が続いているのか少しは緩くなっているのかわからないのが捕らえ所が無い。おまけに伊香保温泉や榛名湖へ向かうのか、県道33号には自動車がすごく多い。大型車やらワゴンも目立ち、真っ黒な排気ガスにかなり気が滅入る。
埃っぽく排気ガス臭い坂がだらだら続くうち、道路脇の風景は市街地からいつの間にか畑に、そして森とかゴルフ場とか観光牧場(?)に移り変わり、やがて伊香保の温泉街が現れた。
有名な温泉街にしては度の過ぎたケバさは無く、適度にひなびた感じで、昔の温泉街という雰囲気が漂ってはいた。何と温泉街の町中に伊香保町の町役場まであった。
伊香保の町の先で脇道に入る。出発前に地図を広げていて、榛名山の北斜面に等高線と付かず離れずでクネクネとのたうちまわるこの道を見つけ、ついふらふらと足を向けたのだ。
ツーリングマップルによると、この先の北榛名山林道はダート含みだと言う。また、そうでなくてもこの異様な曲がり方では、見た目より所要時間がかかるだろう。今日の計画全体にも波及しかねない。しかし、今日は何通りかショートカットが可能なコースだ。野反湖着まで影響が及ぶこともないだろう、とまだ甘く考えていた。とにかく、ここまでの自動車の多さにはかなり辟易しており、静かな道を走りたかった。
少し坂を下り、湯中小の集落を抜け、広場の集落から西へ伸びる細い道に入ると、すぐに杉林の中軽いアップダウンの続くクネクネ道が始まった。等高線に沿ってよく曲がる道がまあとにかく続く。
晴れた空に吾妻線の谷を挟んで向かいの山の日なたの側面には、何か一直線に横切る林道のような道が見える。あっちの道も何だか楽しそうだ。その向こうには赤城山らしい山がそびえているのが見える。
榛名山中腹の詰まったやや高めの杉林を、北榛名山林道はくねくねと、次第に西へ西へと進んで行く。周囲は杉林なのでこの季節でも緑色が濃いままだが、斜め気味の太陽光線に秋らしいニュアンスが漂っている。時々現れる草地のススキの穂も白く光っており、草の中ではカンタンの鳴き声が響いていた。時々現れる集落の、道ばたに落っことしっぱなしの栗のイガ、刈り取り中の棚田の垂れ下がった稲穂、開けた草っ原に拡がった赤トンボの大群、クズを刈る農家らしい家族連れ…自動車1台すれ違わない静かな林道は、いかにも秋の感じられる風景がいっぱいだ。
杉林の中のアップダウンを何回か繰り返しながら、キャンプ場や谷の国道へ降りる林道の分岐、2回のダート区間や林道沿いの小さな集落が次々と現れた後、11:45、深沢の外れで谷間を榛名湖へと登る県道28号に合流。
ここからようやく榛名湖へ登ってゆくことになるが、ちょっといくらなんでもここまで時間がかかりすぎたようだ。さすがに少し焦り始めた。何らかの下方修正を真面目に考えないといけないようだった。しかし、ここまで来たら、取りあえず榛名湖まで登ってから下らないと始まらない。
気を取り直して、車線のない細い登り道を榛名山に向かう。比較的開けていた谷間がやがて狭くなり、冬季通行止め用らしいゲートを通過すると、道路は狭くなってアスファルト路面まで荒れだした。でも、自転車で登る分にはこういう方が好ましい。
いつの間にか、音だけが向かいの林の向こうから聞こえていた川と、道が並んで谷を遡っている。その川も次第に狭くなり、流れが道路に近づき、済んだ淵が間近に見えるようになった。まだ緑の葉を付けた広葉樹が道路と川に覆い被さってできている木陰の中を、道路は次第に登って行く。紅葉の季節には素晴らしい眺めとなるだろうと思われた。
峠までの勾配は一定しているのか、坂だけが続いてなかなか先が見えないのは、何故かさっきの榛名湖への道と同じ印象だ。
唐突に幅の広い道と合流、更に少し登った水場で補給するとまもなく峠だった。榛名湖畔を通過し、今度は倉淵村方面へ向け県道33号を下る。静かな道ばかり通ってきたせいか、何だか埃っぽく感じる県道だ。榛名神社を過ぎ、倉淵村方面への標識に従って更にどんどん下り、13:00、倉淵村の国道406号との交差点に到着。
さっきの北榛名山林道の影響はかなり大きかったようで、今からの北軽井沢経由は私の足では絶望だ。しかも今日は野反湖まで登らないといけない。昼食をどこかで落ち着いて食べるとすると、もはや長野原まで行くのに寄り道する余裕はなかった。倉淵村から北軽井沢への、浅間山を眺めながらカラマツ林の中を行く二度上峠へはけっこう行きたかったのだが…
まあ、ツーリングマップルの「大型車通行多い」という記述が、多少の慰めにはなった。それに悔しがっても始まらない。
そのまま国道406号を進み小さな峠を過ぎ、下り坂が一段落した稲田の集落で、道路がカーブで拡がった脇に食堂が建っていた。しょぼくもなく、新しすぎて何か嘘臭くもなく、程良く田舎っぽい佇まいが何か気持ち的に丁度良く、ここで昼食にすることにした。店先の道路のふところのような場所には2グループの子供が遊んでおり、自転車を停めると物珍しそうにいつまでも眺めていた。
店先には「うどん」の幟が立っていたが、物珍しさで「ひえめし」を頼んだ。米にひえが混じって白木のおひつに入っており、おかずはフキにゼンマイの炊き物なのがいかにも山の食べ物らしい。味噌汁と漬け物が付いて、ちょっとした定食になっており、これで\750。メインのひえ入りご飯は多目なので、ツーリング向きの食事と思ってもいいだろう。
14:20、出発。坂を下りきって長野原への国道145号に合流する手前、細谷までほんの少しの間集落の中の静かな道を選ぶ。
やがて谷間が狭くなり、交通量の多い国道145号に渋々合流。渡る橋の下、川の水が異様な程に鮮やかな水色だ。多分鉱物成分の関係だと思う。谷間の一本道を黙々と走って、15:10、国道と山の斜面の間にはまり込んだような長野原草津口の駅を過ぎ、六合村へ向かう国道292号の谷へと曲がる。
交通量の多かったそれまでと打って変わって、更に狭い谷間の静かな落ち着いた道だ。もう15時を過ぎている。これから2時間で野反湖まで登れるだろうか。標高だけで考えると、何とかなりそうな気もしないでもないが、約30kmの登りだ。まあそんなことよりも先の見えたような気持ちで、再び静かな道を落ち着いて走れることがうれしい。3時間弱くらいはかかっても17時半の食事に遅れる程度だろう。道路両側の高い木が作る木陰の中をゆっくり走りながら、いよいよ野反湖へ向かうのだ、明日はいよいよ魚野川だ、という気持ちの張りがあった。
と、サンプレのWレバーの辺でパキッと小さな音がした。同時に、RDシフトレバーが戻り、4速だったギヤがトップに自動シフトした。レバーのトラブルだ。
レバーが引いた位置で止まらず、RDのテンションに引っ張られて戻ってしまっているようだった。自転車を停めてレバーをばらしてみる。サンプレのシフトレバーは留めボルトのストッパーのため、分解するのがちょっと面倒だった。座り込んでレバーをいじっていると、後ろを時々自動車が通り過ぎる。時間がどんどん過ぎるが、スペアパーツもない現状で直るかどうかもわからない。腰を落ち着けていろいろ試せば何とかなりそうな気もしたが…
「今回はここで終わりか?」という不安もあるが、この青空を見て明日の魚野川水平歩道をあきらめるわけにはいかない。たとえ明日野反湖で引き返すことになっても、少なくとも野反湖には何が何でも行きたくなっていた。突然のメカトラブルで頭が一杯になっているのが自分でもよくわかったが、まあとりあえず野反湖まで行っても旅行としては後悔はしないだろう。宿の予約もしたことだし。
となると駅前まで引き返し、タクシー輪行で野反湖まで行くしかなかった。
とは言え、野反湖までは30km。かなりの出費を覚悟しなければならない。一応念のためバス乗り場で時刻も見てみたが、野反湖までのバスはやはり夏期しか無い。途中の草津へも、この時間にはバスはしばらく無いようだった。しょうがないので、素直にバス乗場隣のタクシー営業所へと向かった。
16:15、再び長野原草津口発。
おとなしく助手席に座って、初老のタクシーの運ちゃんと土地の話や紅葉の話などしながら、野反湖への風景を眺めた。山の中、谷間は広くなったり狭くなったり、集落や畑、森と次々風景が入れ替わる。この道を自転車で登ってみたかった、と心から思う。
標高が上がると山の木々が少しずつ黄色くなってくるような気がするが、まだ紅葉と言う程じゃない。「白樺は黄色く紅葉すると綺麗なんだけどねえ。今年はなんか暑かったのか、葉っぱが黄色くなる前にくちゃくちゃ枯れちゃってるねえ」等と運ちゃんはいろいろと説明してくれる。確かに白樺のしょぼく紅葉してる場合はそんな感じだと思った。さすがにうまいことを言う。
標高が上がると、一気に視界が開けた。夕焼け空の中、山々が紫に浮かび上がっており、思わず声が出る。
野反湖の手前、野反峠で運ちゃんは「ここからロッジまでサービスしますよ。ちょっと降りませんか」と言いながらメーターを止め、駐車場からの展望を眺めさせてくれた。
別名富士見峠とも言うらしいこの頂上からは、関東平野側、野反湖側の両側の展望を望むことができる。だいぶ寒く風も強かったが、もうすっかり夕方色の空の中で、草津の奥の山や八ヶ岳やら上州方面の山が紫色のシルエットになって遠くまで続いているのが眺められた。
一方、野反湖がついに目の前に姿を見せていた。そう広くない湖面は曖昧な夕方の空の色をやはり曖昧な冷たい色で弱々しく反射しており、いかにも山の湖らしく物寂しい。湖水を囲んだ低い丘は笹原に覆われていて、黄色と茶色が混じった葉を付けたシラカバ等の木々がその中に立っている。湖岸の一番奥には、今晩泊まる予定の野反湖ロッジを始め、キャンプ場などが見えた。その奥に、岩菅山や明日足を進める魚野川方面の谷が続いているのが見える。ここから見る限り、谷の奥の方は野反湖よりも紅葉が進んでいるように見えた。
吹き付ける強い風が寒いので、そう景色にうっとりもしていられない。くしゃみを連発しながら、車へ戻った。
17:15、野反湖の一番奥、野反湖ロッジ着。
夕食中、「自転車の方ですか」と声を掛けてきた人がいた。概略私と同じくらいの歳と思われる、TOEIパスハン乗りだった。寒いですねえとか、明日の天気とかとりあえずちょっと表面的に話すが、今一盛り上がらずすぐに2人とも黙々と飯に専念した。明日の魚野川水平歩道で気持ちが張っているのだ。
飯を食ってから早速自転車の修理を始めた。トラブルの原因はバランサー(?)のスプリングが折れたようで、音を考えてもそれで辻褄が合う。スプリングの入ったバランサー部分を、固定ボルトと台座で挟んでいた薄いワッシャを2枚外し、レバーを直接圧着するようにしたら何とか直った。というよりも、バランサーさえあきらめれば、このままあと何年か使えそうな感じだ。
こうなればもう後は布団をかぶって寝るしかない。
記 2000.10/12