1999.10/3 大菩薩峠・牛の寝尾根

赤が本日の経路 灰色は過去経路

塩山→(県道110)裂石→(県道210)長兵衛小屋
→大菩薩峠→石丸峠→松姫峠
→(国道139)深山橋→(国道411)奥多摩


 6:56、普通列車で塩山に着く。駅前広場が濡れている。ちょっと前まで軽い雨だったようだ。空ははっきりしない曇り。まあ、所々雲の薄い部分があるようではある。

 駅近くのコンビニで朝食を取り、7:40塩山発。
 駅前から走り出した住宅地の中の道がすぐに坂になり、農家の石垣の間をぐいぐい登ってゆく。出発早々いきなり、と言う感じではあるが、この先の標高を考えるとまあこんなもんだろう。
 地図上では国道411号の裏道というか、1本東側の県道を裂石まで登ってゆく。至る所に「一葉の道」なんて看板が掲げられている。いわれはわからないが、昔から続く集落を結ぶ生活道路らしく、なかなか落ち着いた雰囲気の走りやすい道だ。少なくとも国道411号のようなホコリっぽさは無い。

 桃やら葡萄らしい果物畑、桑畑、さらに時々ススキの穂などもある農村の坂道を登り続けた。坂は次第に急になり、また緩くなったりの繰り返しが続く。平坦な部分は全くない。農家や畑、小学校や農協の中を汗だくでしばらくゆっくりゆっくり登る。何となく雨上がりでひんやりしてはいたが、塩山駅前の未だに夏だか秋だかわからない感じの雰囲気の空気は、いつしか体感温度も湿度もぐっと下がっており、ふと見回した農家の庭先には薄赤いリンゴがなっていたり、木の葉も何となく黄色くなっており、確実に10月中旬位の秋の雰囲気になっていた。
 途中の小学校は今日は運動会のようで、そろそろ小学生達が登校しつつあった。大菩薩峠への定番ルートらしく、小学生達はあまり自転車を珍しがらない。

 調布のショップのような名前で有名な神金小学校脇を過ぎ、間もなく麓エリア最後の激坂が始まる。これが終わって緩くなると、突然農村区間が終わり、山の中に入る。少し森の中を走って、右側に現れた川の対岸に国道411号が見えると、すぐに裂石着。8:50過ぎだった。塩山駅周辺がだいたい標高400m位で、この辺でちょうど900m位。標高500mを登ったことになるが、あと約1000m登らなければならない。

裂石

 裂石からは再びかなり急な坂が始まった。温泉旅館や短いが立派な杉並木の旧道の脇を過ぎ、やがて山の中の峠道となる。私は坂道がニガテなので、坂がこれだけ急だとなかなか前へ進めない。山の側面を登る道は、やがて山に貼り付くという風情の道になり、森の中を次第に標高を上げていった。
 塩山駅からのバスは裂石までだが、登山客を運んでいるのであろうタクシーが、何台か通り過ぎていった。
 標高約1100mの仙石茶屋の前から、坂は一旦一段落する。と言ってもちょっと緩くなるだけで、相変わらず登りが続く。

 何度かの急ななつづら折れがあり、10:20長兵衛小屋着。だいたい標高1600m弱。ここを一応上日川峠と言うようではある。小綺麗なログハウスの長兵衛小屋は、予約すれば宿泊可能なようだ。山小屋とはいえ風呂にも入れるようで、この辺かもう少し上の小屋に泊まっても楽しそうだ。
 少し休憩しおにぎりを強引に食べて、10:40、長兵衛小屋を出発。舗装道路ではあるが、ここからは道が急に狭くなる。鬱蒼とした森の中、激坂が少し続くが、しばらくすると緩くなり、程なく、富士見山荘だ。
 更にちょっと進むとやがて木々の中から唐突に屋根と壁が見え、福ちゃん山荘が現れた。ここの蕎麦がおいしいらしいが、先へ進む。

長兵衛小屋のにぎわい

 勝縁荘から先は多少道がガレ始める。岩の段差はランドナーにはちょっと苦しい。MTBの健脚の方はこんな所ばしばし行ってしまうのだろうか。坂も急になってきたことだし、迷わず押し始める。さすがにまだ担がなくても進めるが、一般登山客の団体の休む脇を必死に押し上げる。そろそろ空気が薄くなっており、休んで息を整える時間が長くなる。

 森の中の登山道の周囲が急に開け、笹原の中の道になった。と、まもなく11:30、介山荘着。白く濃い霧に包まれた介山荘は、中高年ハイカーのるつぼと化していた。
 塩山で買ってきたコンビニのおにぎりを水で喉の奥に流し込み、サイクリストノートを広げる。さすがに標高1897m、一息付くと、身体が冷えるくらいの気温だ。寒い。カップヌードルとコーヒーを頼んで、暖を取る。カップヌードルの塩分がおいしい。腹の中に染みわたる暖かみが有り難い。ずるずるすすってると、何人もの人が「おいしそうですねえ」とか言いながら眺めて通り過ぎる。噂に聞くほど、もうみんな自転車を珍しがらない。
 霧が濃いので、50m位向こうが全く見えない。介山荘の壁には、ほぼ水平に望む富士山の写真が飾ってあるのだが、当然の事ながら今日は晴れの日の展望を想像するしかない。

 12:00、介山荘発。
 登山客がうじゃうじゃと集まっている介山荘を後に山の中に入ると、すぐにほとんど垂直に近いような印象のある登りの担ぎが始まる。霧で濡れた岩を足を踏み外さないように慎重に一歩一歩踏みしめるが、一歩当たりの登りが大きい。すぐに坂自体は緩くなるが、担ぎは続いた。
 霧がやたらと濃くなり、時々吹く風に揺さぶられ、木々から垂れる滴も多くなった。まるで雨のようだ。足下の岩も濡れている。足を滑らすと、危険だ。標高2000m近く、空気も薄くなっている。息を整えながら、休み休みゆっくり登ってゆく。
 20分もかからないうちに担ぎの登り区間も終わった。まあ、20分でもつらいものはつらい。

霧の中、ダム湖が見える

 頂上に近づくと、霧の水滴は無くなった。が、依然として霧は濃い。坂の上、木の間にぽっかりと空いた隙間を抜けると、いきなり笹原が拡がっていた。拡がっているのはわかるが、霧が濃いので展望が効かない。霧の中で確認できるのは周囲の30m程度だけだが、晴れるとさぞかしものすごい展望なのだろう。
 しかし急な下り斜面だ。道に岩が転がってないのは有り難いが、どっちにしてもこの急な激下りはいくらMTBでも下れないだろう。いや、下っちゃうのではないか。ブレーキを握り、自転車を押しながら笹原の中をゆっくり下ってゆく。

 12:30、石丸峠着。霧の中から現れた標識以外、本当に何も無い。
 石丸峠からは少しだけ押して登り、よく文章で見かけるぼろぼろの掘立小屋の脇を通過し、小菅方面の標識通りに再び森の中へ入る。更に少し押しで登ると、おもむろに下りが始まる。
 いよいよ念願の尾根の区間だ。

 標高2000弱から1600(?)位まで、道は尾根に沿いつつも、1/25000図には出ていない無数の小さなつづら折れを描き続ける。下り坂も急で、折角変えて来たXTRシューはよく効くのだが、枯葉の溜まった細かな狭いつづら折れではいかんせん35Aのタイヤがロックするだけだった。のみならず木の根による段差も頻繁に現れ、乗車テク不足の私は早めに押しを決めた。
 ブレーキをかけながら下り坂を押したり、持ち上げたりして進む私の後ろから、枯れ葉や路上の枯れ枝を折る音がして、3人ほどのMTBが真剣な表情で追い抜いていった。爆走と言うほどではなく、彼らも必死のようだ。さっき介山荘で後から着いたMTBの方たちだ。MTBの走破力はスゴイとひたすら関心(もちろん乗車テクも)。

 急な下りはしばらく続いた。下るうちにいつしか大菩薩峠や石丸峠の寒さも和らいでいた。木立の隙間から曇り空が見える。霧も晴れたようだ。やや隙間のできた木立の合間から周囲の山々が見下ろせる。展望が利かなかったのであまり標高を意識していなかったが、正面やら周囲の山の稜線はまだまだ下の方だ。

森の外は曇り

 やがて全部押していたつづら折れも部分的に乗って下れるくらいになり、そのつづら折れが終わって路面も根っこや岩の段差が無くなって、しばらく乗ったまま下れる位坂も緩くなった。とはいえ、倒木やら岩の段差やらは頻繁にある。こういう場所では降りて押さなければならず、あまりいい気で走ってもいられない。ブレーキレバーは握りっぱなしだ。
 ブレーキで手がいい加減痛くなった前回に懲りて、今回はドロップハンドルをではなく、セミドロップにフーデットバーを前向きに取りつけたタイプのハンドルを付けてきた。こういうときにはブレーキが握りやすいのが何より有り難い。

 そういう場所で足を停めると、誰もいない森が静かだ。ふと足元を見ると、敷き詰められた落ち葉の上に栗がものすごくたくさん落ちている。鳥の声がまばらに聞こえ、時々吹く風に揺られて森全体が力強くざわめいた。時々茂みの向こうで短い音がしてどきっとするが、いつも栗の落ちる音のようだった。耳を澄ますとキツツキらしきコンコン言う音も聞こえる。
 薄暗い森に遮られ、木々の外は全く展望が利かない。地図ではこの道は鋭い尾根上をまっすぐ走っているように読めるが、実際の道は、周囲が少しの範囲で平地になっていたり、片斜面の途中だったり、どっち側も下りという尾根の頂線上だったりする。森の中、次第に倒木が多くなっていった。と同時に、いかにも毒々しい、大きなキノコがにょきにょき立っているのが目立つようになっていった。キノコが大きいので、まるでキノコに眺められているような気分になる。枯葉の中に、真新しいMTBの轍を見つけ、逆にほっとする。さっきのMTBの方たちだろう。

静かな山道

 走れる区間がしばらく続き、再び細かいつづら折れが連続する急な下り区間になって、これが終ってまた下りが緩くなって走りやすい区間が続いた。地図によると、1600m程度から1400mまで標高を下げたようだ。
 西に進むにつれ、路面の岩は少なくなり、山道に敷き詰められた枯葉が多くなっていった。逆に今度は倒木が増えた。山道を完全に迂回しなければならないほど大きな木もある。小さい倒木なども結局は車輪を取られるので、降りて倒木を越える。こういう感じで、乗ったり降りたりで尾根の1本道を下っていった。

 ほんの2・3箇所、尾根の両側が開けて、周囲の山が見渡せる場所もあった。曇りなので周囲の展望があまり利かないのと、森から抜けた開放的な印象で、何だか麓まで降りてきたような印象がある。が、まだ標高1400〜1300m位なのだ。

 やがて、森の中に続く道に分岐が現れた。棚倉という看板が出ている。小菅へ直接向かう道と、松姫峠へ向かう大マテイ山方面への分岐だ。小菅への道は、急な下り道がMTBでもキツいくらいガレまくりという話を聞いていたので、迷わず松姫峠方面へ向かう。
 すぐに緩い登りが始まる。標高差約60m程度の緩い登りとはいえ、やはり押さないと進めないの登り坂が少しの間続いた。こっちの道には広葉樹の落ち葉ではなく、カラマツっぽい針葉樹の落ち葉で道が敷き詰められていた。倒木はめっきり減って、押すにも押しやすい。
 登り切ると、しばらく下って再びちょっと登ってまた下って、という繰り返しの区間になった。ここの区間は森もやや深いが、本当に走りやすい。ほとんど自転車を停めることなく、足の続かない坂で降りて押すだけで進むことができた。
 ただ、周囲全体の地面がカラマツの枯葉にきれいに覆われているが、逆にそれ故に道自体は判然としなくなりつつあった。

 最後の分岐には標識が無かったが、コースガイドの通りに右折した。道が山の緩い斜面と同化してさらにはっきりしなくなりつつあったが、しばらく走るとやがて下の方から自動車の音がするようになった。何度かカーブを曲がるうち、下り坂の先の茂みの向こうに赤いテールランプの光が見え、15:05松姫峠着。
 押しが多かったからか、石丸峠から2時間半かかった。

 間髪入れず松姫峠を下り始める。
 峠頂上で1250m位だろうか。山道を今まで下ってきたわけだが、舗装路の下りの楽さ、安心さが別世界のようだ。楽で安心なのと同時に一方では物足りなさを感じるが、今まで閉鎖的な森の中を走ってきて急に周囲が拡がった開放感はまるで空の中を走っているようでもある。
 周囲を見下ろし、山の斜面に張り付きながら峠道を下ってゆく。標高差500mの長い下りに、こんな高い所を走ってたのか、とも思う。だが、この先まだ小菅から奥多摩湖まで下り、さらに奥多摩駅までずっと下りか平坦なだけなのだ。

 ダイナミックな展望の下りの曲がり角の向こうに農家の屋根が見えて、小菅の集落が始まった。なんだか久しぶりにこの世に降りてきたような気分になる。15:20、小菅着。標高650mまで降りてきたのだ。
 少し休憩し、15:40、小菅発。
 山間ののどかな谷の道を奥多摩湖まで下りながら、ランドナーで山の中に入る意味を考えていた。今日はドロップハンドルを交換してセミドロップ風のを付け、後ろガードも外してパスハンター風の装備で来た。でも、どこをどう考えても走破性や効率を考えるとMTBにメリットがある。性能的にもブレーキ・グリップ・フレーム剛性など、やっぱり餅は餅屋だ。何よりも断然気持ちが楽だろう。
 自分の中で、自分の行動に少し非合理的なものを感じていた。

 しかし、ちょっと違和感のあった前回と違って、今回は何かいい感触がある。制限が多いランドナーで山に入ったことには後悔していない。比較的下りやすい部分の山道、静かな薄暗い森の中、木立の向こうへどこまでも続く山道を静かにゆっくり滑るように下るあの感じは、パスハンター(ランドナー)ならではのものだろう。理由がまだすっきりしないが、自分はそんな所に魅かれているのではないかと思った。
 また機会を見て山に来ようと思う。

 16:25、奥多摩駅着。いや、疲れた。時刻表を見ると、44分に立川行きがあった。

記 1999.10/5

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Last Update 2004.1/19
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