The Genius Of Bud Powell

Polydor POCJ-1839(Verve MGV 8115)

Bud Powell p
Ray Brown b
Buddy Rich dr


 ピアノの巨人Bud Powellの活動期間は20年間。録音で言うと、1944年Cootie Williams盤から最晩年期の1965年Ups'n Downsまでが、作品や海賊版、何らかの形で世に出ています。このうち、一般には1953初頭までが前期、〜1958年は中期、1959年以降は後期と分類されています。
 このような分け方をされるのには理由があります。1953初頭までの前期は、究極の天才がひらめき・パワー・テクニック・情熱、すべてを音楽に凝縮しているかのような、神懸かりの演奏を繰り広げます。その後、1958年ぐらいまでの中期はナーバスなあやうい表情、そしてそれ以降、淡々と音数少なく落ち着いた(というよりちょっとへろへろ気味とも言える)演奏の後期という具合に、その音楽はがらっと変わってしまうのです。
 それぞれの時期にはそれぞれに味わいがあり、それぞれ多くのファンに愛されています。このうち前期Powellと言えば、Roost盤「Bud Powellの芸術」かBlue Note盤「The Amazing Bud Powell 1・2」辺りが有名で、とりあえずこの辺から聴いてみたけど、という人も多いことでしょう。でも、この「The Genius」を含むVerveでの作品の方が、前期Powellの魅力がより濃厚に現れているように思います。

 さて、この作品には1950年のRay Brown、Buddy Richとのトリオ録音、1951年のソロ・ピアノと2つのセッションが入っています。無節操に思えますが、この時期はちょうどSP盤からLP盤への移行期で、Verveに限らず初期LP盤の特徴でもあります。

 1950年のセッションは2曲4テイク。メンバーは相棒Ray Brown、この録音でしか競演していないBuddy Rich。聴きものは、何と言ってもCD化に当たって幻の2テイクが加えられたTea For Twoです。アドリブの根本のコード進行からして原曲をほとんどとどめていない大胆なアレンジ、そのコードに乗っかって縦横無尽の超絶ソロが繰り広げられる3・4分間、スピーカーの前に釘付けになってしまうほど、引きずり込まれるような魅力を持った演奏です。迫力あるアドリブだけではなく、テーマ部分はコードで分厚く、アドリブはシングルトーン主体でびしっとフォーカス鋭くメリハリを利かせ、最後に原曲のメロディがちょっとだけ出てくるという構成もかっこよさを盛り上げています。
 Powellはこういうメロディアスな曲を演奏すると、曲の世界を無視しているようでいて、原曲とアドリブの対比が逆に原曲も活かすという、素晴らしい演奏をすると思います。
 かつてはあまりに激しいピアノにベース・ドラムが付いていけない、という意見がありました。特に普段の芸風がPowell系統とはちょっと違うBuddy Richが不評だったようにも思いますが、CD時代になってモノラル作品の音が聞き易くなった今、Buddy Richもなかなかいい演奏をしているのがよくわかるようになっています。

 一方、この作品中多数を占める1951年の録音は、すべてソロ演奏。曲目はスタンダード曲とオリジナルですが、オリジナルもこの後晩年期まで繰り返し演奏される、ファンには耳タコ状態のお馴染みの曲ばかり。Powellとしてもファン的にも、ある意味スタンダード集に近いチョイスといえます。
 この親しみある曲に沿って繰り広げられるのは、1950年と同じく、斬新なアイデアに超絶パワーとテクニック、スピード・スリル・サスペンス(←死語)のど迫力ワールドです。コードで原メロディをなぞっていたかと思えば、急加速のシングルトーンで無理矢理音数を突っ込みぎりぎりで辻褄を合わせるという、Powellお得意の強引な展開がもうたまりません。
 親しみのある曲と、何とも壮絶としか言いようがないPowellならではの世界を行ったり来たり。ソロ演奏であるせいもあって、きりっとたおやかな前期Powellの典型的な表情がよく現れていると思います。

 曲は全部2分台から4分台。気合いとパワーを一気に凝縮、目の眩むようなアップテンポも時が止まるようなバラッドも、どの曲もイントロからエンディングまでかっこいいとしか言いようがありません。
 特に親しみある曲想と演奏の雰囲気の落差が激しいのが、The Last Time I Saw Paris。実はこれ、クリスマスの「真っ赤なお鼻の〜トナカイさんは〜」なんです。

記 2003.12/12

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Last Update 2003.12/12
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