Miles Davis
/Complete Live At Plugged Nickel 1965

SONY RECORDS SRCS 7351-7357

Miles Davis - tp
Wayne Shorter - ts
Herbie Hancock - p
Ron Carter - b
Tony Williams - dr


 秋と言えば、順当には「枯葉」でしょう。
 「枯葉」と言えば、「MilesかEvansだよ」と言う人は多いことでしょう。Bill Evansは少し前に紹介したので、今回はMiles Davisです。
 長期に渡ってジャズ界に「帝王」として君臨し続けたMiles Davisの「枯葉」は、初演の1957年BlueNote盤「Somethin'Else/Cannonball Adderley」が圧倒的に有名です。この1957年の演奏ではGil Evans風のイントロに有名なスタッカートの出だし、ソロイストと共に替わるバッキングなど、緻密なアレンジが印象的でした。
 その演奏と、この1965年の「枯葉」との180度ぐらい違う方向性は、そのままMiles Davisの演奏の変遷、そして1950年代後半と1960年代後半のジャズ全体の違いがそのまま現れていると言えます。

 この作品は1965年12月、シカゴ「Plugged Nickel」でのライヴレコーディング。当初「Vol.1&2」として発表されて以来、長い間大量の未発表録音が残っていることが知られていました。当然のように完全版の発表が渇望されていましたが、後ろを振り返らない気性のMilesの意向か、プロデューサーTeo Maseloの意向か、コンプリート盤が発表になったのは1990年でした。この陰には、学生時代から熱心なMilesファンで知られている、ソニー・ミュージック・エンターテインメント上原プロデューサーの尽力があったらしいと聞いています。

 Wayne Shorterの参加した1964年「E.S.P.」から始まった「黄金のクインテット」を擁したMiles Davisは、シンプルなオリジナル曲、または既存の曲を解体するかのようなメンバーの自由な発言を重視する演奏に向かっていました。
 そういう時期のライヴ・レコーディングとして知られているのがこのPlugged Nickelですが、このコンプリート盤CD7枚組で、枯葉が入っている第6集は不思議とスタンダード曲ばかりで固められています。ちょうどそういう演奏サイクルだったのでしょうか。
 リズム隊のHerbie、Ron、Tonyとも、その演奏は70年代後半以降ぐらいと多少ニュアンスが違います。豊かさより切れ味、完璧さより自由自在、メロディというよりインスピレーション+コンテクスト、お互いに次の出方を探りながら、ツッコミどころでは一気に盛り上がるという、若さのバクハツ力に溢れた演奏だと思います。
 これに全く別の表情と表現の幅を与えているのが、Wayne Shorter。この人の場合も現在の演奏の方が圧倒的にいいのですが、ソロが始まった途端、バンドサウンド全体もその場の聴衆も、ミステリアスでこってりと、どこかクールなのにどこか鮮やかなShorter'sワールドに引きずり込まれるのが圧巻です。約10年後のWeather Report絶頂期をぐいぐい引っ張った「無限のクリエイティビティ(Joe Zawinul談)」が、この当時もうこんなに完成されていたのです。

 長い間渇望されていただけあり、1990年に発売されたコンプリート盤は圧倒的好評を得ました。ところが、このコンプリート盤の1992年再発盤は、当時流行の金メッキCDとして出たのですが、なんとその実態はCDの樹脂自体に金色っぽい色が付けられたにせ金色CDだったのです。おまけに中ジャケットやライナーフォトなど、印刷品質が明らかに落ちている。
 高音質を期待して、初版の普通CDを売ってまで再発盤に買い換えた私は、当時相当激怒しました。SONY盤なんて2度と買うか、とも思いました。結局ソニー・ミュージック・エンターテインメントをようやく許せるようになったのは、かなり後に24ビットリマスタリング再発盤を安価で、しかも紙ジャケットで出すようになってからです。

 もうひとつ、このPlugged Nickel盤には、名プロデューサーMichael CascunaのMosaic Recordによるアナログ盤が存在します。これについてはちょっと不明。

記 2003.11/5

今月の一枚 目次へ    Topへ

Last Update 2003.11/6
ご意見などございましたら、E-Mailにてお寄せ下さい。
Copyright(c) 2002-3 Daisuke Takachi All rights reserved.