Pat Metheny Group
/Travels

ECM 1252/53

Pat Metheny - g
Lyle Mays - p,key
Steve Rodby - b
Dan Gottlieb - dr
Nana Vasconcelos - perc


 「いつかどこかで、君が感じたあの想い、あの香り」。
 今は無きトリオレコードから1983年に出た、このアルバムの最初の国内盤の帯の文句です。過去の全国内盤からベスト帯フレーズ(何それ)を選べ!と言われたら、私は間違いなくこれを選びます。
 まさに音楽の内容そのものずばりのフレーズだと思いますが、誰が聴いてもきっとこういうイメージということなのでしょう、この作品は。

 1981年録音の前作Offramp(邦題「愛のカフェ・オーレ」←ジャズ盤珍タイトルNo.2※注))で、バンドにギター・シンセサイザーとシンクラヴィアが導入され、ベースがSteve Rodbyにチェンジ、パーカッションにNana Vasconcelosがゲスト加入。それまでの「元気が良くメリハリがある」という感じのサウンドは、分厚く緻密、ヴィジュアルでスペイシーでちょっと翳りがあるというサウンドに、一気に方向転換しました。
 そのスタジオ盤だった前作録音後の1982年全米ツアーからの総集編として、この作品は発表されました。
 フルモデルチェンジと言っていい前作のサウンドを、ライヴで見事に再現・進化しているのは、年間200日以上のライヴをこなしていたこのバンドならでは。同じ構成の曲、同じメンバーの曲ですら、圧倒的にバンドの一体感や表現が進歩していて、その違いだけでも感動的ですらあります。
 バンド全員が同じ呼吸をしているように精密でいて、ゆったりとルーズささえ感じさせる振幅の大きなリズムに加え、強弱・厚みが拡大したバンドのダイナミックレンジが、すべての曲でドラマチックな掘りの深い表情に直結していると思います。各曲がスタジオ盤とまるで別の曲みたい。

 Pat Methenyの音楽は、アメリカの田舎の風景を想像させるということがよく言われます。広がりのある空、農地、牧場、遠くに連なる山々…でも、これ北海道にそっくりの風景なんです。
 実は、1983年に出たばかりのこの作品を、それこそ耳にたこができるほど毎日聴いて、頭から離れない状態で行ったのが初めての北海道。高校3年の夏のことでした。その北海道旅行で、この「Travels」の各曲と旅程が頭の中でシンクロして、まるでこの作品が旅行のサントラであるかのような気分に捕らわれました。1曲目のマイナーボサノバ「Are You Going With Me?」は雨の夜行列車「急行八甲田」、二曲目の一転して明るい「The Fields,The Sky」は拡がる空にまぶしい陽差しの大地、三曲目「Goodbye」はとぼとぼ歩いたトウキビ畑の道と無人駅の夕暮れ…耳たこの音楽が北海道の強烈な印象に実にうまく乗っかったのだと思います。
 そんな思い出もあって、今でも北海道を走るときによくこの人の曲を頭に思い浮かべています。特にこの作品、中でもタイトル曲の「Travels」は、密かに「北海道Tourのテーマソングだ!」などと考えています。でも、私以外にも、北海道ツーリング(自転車以外でも)とPat Methenyが合う、と言う人はいるようです。

 「Pat Methenyに北海道ツーリングを語らせると、熱いぞー」等と想像もしてしまいますが、そんなわけはありませんね。

※注 No.1は、僅差でJohn Scofield/鯔背(いなせ 原題:Still Warm)でしょう。

記 2003.6/29

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