Bande Originale de MILOU EN MAI
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Stephane Grappelli - vln,b-vln |
瑞々しい緑が溢れ、きりっと涼しく優しい風が吹くこの季節になると、Stephane Grappelliのこの作品を思い出します。
1989年、Stephane Grappelliはレギュラートリオを率いて初来日しました。公演の模様はNHKでも放映されましたが、その素晴らしい音楽に一発でノックアウトされたジャズ・ファンは少なくないと思います。
その日はたまたま早く仕事が終わり、私はその番組を見ることができました。
それまでStephane Grappelliといえば、Gjango Leinhaltとの1940年代の演奏が有名で、私にはその予備知識しかありませんでした。とてつもなく過去の人というか。
ところが、画面に映っているその老人のバイオリンからは、どこまでも明るく切なく華やかで、それでいてバックのギターとベースをぐいぐい力強く引っ張るものすごい音が、次から次へとあふれ出てきました。こんなの聴いたこと無い。1曲2分から3分という演奏時間は、10分20分当たり前のジャズとしては短いものでしたが、何というか凝縮された濃い時間の間もう音楽にうっとり。1曲目のCheek to Cheek が終わって目が覚めるような感じで、思わず画面に向かって拍手をしていました。
こんなの有りか、というサウンドに、これはちょっとStephane Grappelliをもう少し聴かねばなるまいと、その後何枚か立て続けに作品を入手してみました。驚くことに、80年代後半、ほぼ80歳ぐらいのStephane Grappelliは、どうやら演奏家として絶頂期にあったようです。それ以前の演奏と較べて、何か音楽のしなやかさ、切れが全然違う。
翌年、Milou en Mai(邦題「5月のミル」)というフランス映画が公開されます。ジャズ・ファンにはお馴染み、ルイ・マルの作品で、音楽はこのStephane Grappelliでした。主人公のミルは、少年のような心の片田舎に住む初老の独身男。同居の母親が亡くなり、そのお葬式に親族が集まってまた帰ってゆくという、フランス映画の見本のような山の無いストーリーです。物語の舞台となる田園風景が何とも美しく、ストーリーのダイナミクスではなく、細かいシーンの連続だけが観終わった後の充実感につながっていたのも、何ともフランス映画でした。
その映画のサントラが、この「Bande Originale de MILOU EN MAI」です。
スタンダード演奏の多いStephane Grappelliにしては珍しく、この作品はオリジナル曲が中心です。オリジナルではありますが、聴いたことがあるようなどこかの国のスタンダードのような、何とも優しく爽やか、明るく切ない、それでいて感情のすべてが込められているような情熱のメロディが次から次へと繰り出され、サントラとしては勿論、単体ジャズとして十分に素晴らしい作品だと思います。
サイドメンの演奏も充実しており、特にレギュラー・トリオのギタリスト、Marc Fossetの中音域を活かした音使いは、このバンドのサウンドの厚みを生み出していると言っても良いのではないでしょうか。
1989年の公演は、意外にもジャズ雑誌ではほとんど話題になりませんでしたが、巷ではかなり反響があったようです。それ以後しばらく、TVや店舗でStephane Grappelliがかかるという場面に多く出くわしました。
そのせいか、翌1990年もStephane Grappelli Trioは来日しました。公演日は1989年は1日だけだったのが、一気に5日間に。しかもオーチャードホール。
私は東京公演のうち4日に通い詰めました。レギュラー・トリオに驚異のアコーディオン奏者Marcel Azzolaが加わったクァルテットは予想以上の素晴らしい演奏を聴かせてくれましたが、その辺りの話はまたいずれ。
記 2003.4/24
Last Update 2003.4/24