2019/4/27(土)五島列島Tour19#1 五島福江空港→福江 五島福江空港→鬼岳天文台→浜町→増田町→吉田町→雨樋宿→大曲→河務→戸岐ノ首→大曽根→観音平→半泊→きびなご網代→堂崎→奥浦→大泊→福江 77km ルートラボ

 11:45、福江空港発。
 現ターミナルビルから旧ターミナルビル前を経由、福江市街を見下ろす縁から山裾の細道へ。
 ルートラボで選んだGPSトラックの道沿いには、畑と常緑広葉樹独特の密な森が断続した。里っぽくはあるものの、茂みと森に埋もれそうな細道だ。舗装路面があまり荒れていないのが助かる。茂みには草花が多く、黒地の羽にクリーム色模様が素敵なモンキアゲハが普通に飛んでいるのが嬉しい。紺っぽく見えるのはナガサキアゲハだ。さすがは長崎県、ナガサキアゲハも普通に飛んでいるのが私には嬉しい。ただ、最近は温暖化で、モンキアゲハもナガサキアゲハも関東でも普通に見られるらしい。トンボはサナエトンボが目立つ。流石に5月のツーリングだ。周囲に小川の気配は無いのに、透明羽のカワトンボも路上をひらひら飛んでいる。木漏れ日の路面を川原と似ていると思っているのかもしれない。

 細道からやや広い車道を経由し、12:05、鬼岳天文台着。天文台手前のレストハウスでは、何となく腹が減りつつあるような気がする私にとって上手い具合に、軽食、特に五島うどんも食べられるようだ。しかし、あまりにまだ出発したばかりである。この後海岸沿いの県道や国道も経由することだし、もう少し走ってからでも何かあるんじゃないかという気もするので、目についたソフトでお茶を濁すことにしておく。ソフト自体はこちっと濃厚で、大変美味しいソフトだった。しかし、結局その後この日は夕食まで何も食べられなかった。
 今後も何の気なしに選んだGPSトラックルートで、さっきの密林みたいな森が登場するようだと、何となく熊鈴を付けていないとそら怖ろしいような気はする。そこで店員さんに尋ねておくと、熊はいないが猪はいるとのことだった。一番怖ろしい動物が現れる可能性が消え、少しは安心できた。
 レストハウスの少し先では、森の中から一気に視界が拡がり、鬼岳の全貌が現れた。山頂まで薄褐色の枯れ草に覆われた大変特徴的な姿は、「空から日本を見てみよう+」では「巨大なフカヒレがあります」とも紹介されていた。火山のカルデラの中にもう一回火山が噴火して、このような形になったらしい。振り返ると眼下には真っ青な東シナ海が、その上には真っ青で日差しの眩しい空が拡がっている。ここまでかなり狭く密な物質や生命に囲まれていたために、急に広々とした空間が拡がって、それだけで立ち尽くすように爽快だ。

長崎県五島市上大津町 鬼岳天文台 https://theta360.com/s/c1IN2ZveDd9nPqfdgpYY2Ndwm 長崎県五島市上大津町 鬼岳天文台  https://theta360.com/s/f6HCGvVaAOVnckLkQw4rGbMlE

 しかしまだ出発したばかり、粛々と脚を進めねば。12:15、鬼岳天文台発。海を目指して山裾を一気に下ってゆくと、道は再び森の中へ。裾の森を屈曲し、次第に高度を下げながら大窄(おおさこ)の畑の中へ。

長崎県五島市大窄 https://theta360.com/s/jiZZvjUBWKXaUfrBjHRlxifi4

 県道165から再び細道を繋ぎ、海岸近くの平地まで下ってしまう。複雑に道を移りながら、森が断続する畑を細道が辿ってゆく。知らない場所の細道を辿るのに、GPSトラックツーリング程効率の良い方法は無い。事前にルートラボで選んだ道は最低限コンクリート舗装であり、千葉県や茨城県のように廃道にはならないのが助かる。

長崎県五島市小泊町 https://theta360.com/s/okYA03qGEKkqdfdx95ABvqFc0

 道が森から突然漁村に出た。12:45、浜町着。打って変わって民家の間を海岸へ。明るい空と、明るい水色の澄んだ海が拡がった。何か入浴剤でも入っているんじゃないか、という鮮やかな明るい色。ここはまさしくさっき機内から眺めた海岸である。細道や漁村の後の広々とした海、眩しい空に、しばし脚が停まる。

長崎県五島市浜町 https://theta360.com/s/35WipsHrkzjCbk3j4zx03Bqnw ------------------------------------------------------------

 県道49で海岸から再び台地へ。増田町、高田町、吉田町と畑の細道から内陸の農村へ、山裾で山と山の間をすり抜け田圃と畑が拡がる平野へ。福江郊外まで戻って来たので、東側に福江の市街地が眺められる。さっき真下で見上げた鬼岳は、後方からもう一度横に近い方向となって、それなりの距離感覚で眺められるようになっていた。

長崎県五島市吉田町 https://theta360.com/s/eN8v1tUxoDhnq1Y8IswEX5mAi 長崎県五島市吉田町 https://theta360.com/s/hgCx3HJzFI2jkijTb2o62Vbxw

 次は猪掛峠である。県道27を渡って旧道っぽい道へ。集落からの入口取付だけぐいっと登るだけで、あとはしばらく緩々の斜度で峠まで標高差約100m。杉の植林と広葉樹の中、車皆無の静かな道である。林道の看板を見かけたように思うものの、トンネル開通前はこちらが県道だったのだと思わせる道幅と風格がある。
 猪掛峠というだけあり、山側にずっと続く猪よけ柵がやや物々しい。しかし、明るい木漏れ日の中、カワトンボやサナエトンボ、モンキアゲハやナガサキアゲハを始め様々なチョウが路上を舞う、賑やかで楽しい道だ。
 13:40、猪掛峠着。

長崎県五島市吉田町 猪掛峠 https://theta360.com/s/mlWKhFbPsLeR1Bx0O7ZiU18cK

 峠の向こうはやはり濃密な森の静かな緩々斜度の下りながら、雰囲気はがらっと変わって頭上が開けた明るい道である。周囲の山々も眺められ、谷間の空間感覚に福江とは違う内陸部を感じさせられる。

 14:05、雨通宿着。大曲まで谷間の静かな道を経由し、大曲から国道384で島北側の海岸へ。国道としてはのんびりとしている谷間の道ではあるものの、流石に国道だけあって交通量はやや増える。そうでなくても、今日はめまぐるしく景色が変わる。これが島のツーリングというものかもしれない。
 既に14時だというのに、まだ光はお昼のような雰囲気だ。事前に予想していたとおり、明らかに1時間ぐらい日の動きが遅いのだと思われた。

 谷間の川が拡がった河務から県道162へ。さっきまで谷間を川沿いに進んでいたはずだが、池かやや広めの川のように見える水面は、地形図を見てみるともう海なのである。そういえば、水面がそこはかとなく、海と言われれば海の色っぽいようにも見える。

長崎県五島市河務 県道162 https://theta360.com/s/t5IrTAvP5OGrRtjQBNeIhdE0G

 県道162は、唐船ノ浦の湾沿いに権現岳の裾を回り込んでゆく。杉木立の隙間から、ちらちら青い色が見えないことは無いぐらいに、海の雰囲気が伺える。静かではあるものの、地形図で期待していたほど眺めの良い道ではない。
 向こうの岸辺には大きな建物が見えるような気がする。それは何だかリゾート系のホテルであるような気もする。それぐらいの規模のホテルなら、何かレストラン的な食堂があってしかるべきだろうと思うと、何か食べたくなってきた。まあ、まだ決定的に空腹で動けないわけじゃないので、単なる条件反射である。実際にはまだ水も充分にある。心配も問題も無い。
 道が進んで向きを変えるにつれ、その風景は同じ湾の反対側の岸、岐宿の市街地ではないかということを、私は理解するようになった。私の行く手には単なる漁村しか無さそうである。それ自体には何の不思議も無い。地形図で小さな黒い四角が点々と散らばっている通りである。
 行き場の無い期待の反動から増幅される空腹感に、さっき鬼岳で五島うどん食べときゃあ良かったなと思ったが、後の祭りなのだった。幸いさっきから多くの集落には自販機があるようなので、当面は水やら何やらでごまかして凌ぎ、今後の教訓にしよう。

長崎県五島市戸岐之首 https://theta360.com/s/ddkyLYr7Md60HhK5UVmmoAQYC

 森の中から盆地のような開に出た。ここから福江島北部半島唐船ノ浦の半島部、行き止まり細道ローラー作戦である。まずは海岸沿いに湾をぐるっと回り込んで行き止まりの大曽根へ。
 苔生した緑色の干潟から明るい色の浅瀬へ、静かな澄んだ水面の内海が対岸の山裾へ続く。唐船ノ浦という名前の通り、唐へ行き来する船が立ち寄ったのかもしれないと思わせる、静かな水面の海だ。まだまだ高い日差しが照りつけ、静かな風景がますます濃厚に鮮やかで、時間が過ぎてゆくのを意識させられる。現実としては西風が少し吹いていて、脚が多少重い。景色にうっとり、時々現実に戻りつつ、民家が点在する道を進んでゆく。

長崎県五島市大曽根 https://theta360.com/s/gu2ninRj2euxE56hyPPCz8c8e ------------------------------------------------------------

 14:40、大曽根着。ルートラボで引いた線の線端は防波堤の内側の茂みに遮られていた。放置気味の人の営みの痕跡が自然の営みに飲み込まれつつある、それ以上の印象は無い。また里へ戻るとする。

長崎県五島市大曽根 https://theta360.com/s/hcJsFMxl9BWJuZZDvc2hsZAOW

 来た道を戻るのは追い風方向。自分でも意外なほどすいすい快調な脚取りだ。

 再び県道162を経由し、次は観音台から半泊へ。
 山裾の集落から森の中へ。事前にルートラボで予習したとおり、10%以上の本格的な登りが100mちょっと続く。斜度は大変厳しいが、インナーローで歩みはゆっくりのんびりでも、別に長い登りとも思えない。先週登った御荷鉾スーパー林道のお陰で鍛えられたのは、体力じゃなくて精神力だ。
 峠部分を越えると、半泊へ急降下が始まった。途中きびなご網代と半泊の分岐で、目の前の道端から転落するような急下りの細道で、果たして半泊の海岸に降りるのが適切な行為なのかどうか迷ったが、「半泊教会」の看板が背中を押してくれた。眺めたとおりに斜度の大変厳しいコンクリート舗装路を何とか下りきって、15:15、半泊着。
 切り立った森に挟まれて、小さい湾に真っ青な明るい色の海、細かい石ころの海岸に民家が数軒。海岸と防波堤の中の集落は未だ高い日差しに照らされて、やはり濃厚で鮮やかな風景だ。自動車2台で来た先客の家族連れが何人か、石の浜辺に座ってで海を見ていたり、半泊教会を見学するべく教会の周りを歩いていた。こぢんまりした、しかしこよなく静かで美しい入り江の漁村である。

長崎県五島市半泊 https://theta360.com/s/jev4SVXRLuVEo6B7WQD8BWCYa

 まずは道の行き止まり、漁村先端の桟橋まで行ってから、次は半泊教会へ。

長崎県五島市半泊 半泊教会前 https://theta360.com/s/kmXmjxk2MffCBQ3FABDkmxulM

 半泊教会は小さく簡素な木造建築だった。しかしその内部は、とても大切に愛されている建物ならではの雰囲気がすぐに感じられた。この教会の良さは来てみないと解らないだろう、と思えた。いや、単に来て良かったと有り難がればいいのだ。
 教会から出て先客の家族連れに習い、午後の日差しで眩しい海岸を眺めてみる。さっきまでのように気が急くことも無く、気持ちが落ちついて海でも眺める気分になれている。こういうツーリングがしたかった。

 15:30、半泊発。分岐までのコンクリート舗装登りは前輪が不安定になるような急勾配なので、迷わず押す。分岐から林道を更に奥へ。一度120mまで登って稜線の向こうへ出ると、森の中から明るい濃紺の東シナ海が時々だが眺められるようになった。半泊からずっと林道の狭い空間が続いていたためか、視界が晴れた空と濃厚で鮮やかな海の、眩しい光で一杯の開放感に、やはり所々でしょっちゅう脚が停まる。

長崎県五島市きびなご網代 https://theta360.com/s/pJoh0lycP9azHnacVmGyN0gzY

 15時半過ぎ。普段のツーリングだとそろそろ全力で帰り始めようかなあ等と思い始める頃ではある。しかし、ここは長崎県も西の端。空も日差しも普段より1時間遅れ、14時台ぐらいのまだまだ明るい雰囲気だ。腹もまだ大丈夫だ。
 ただ、このまま間伏の漁村まで120m下ってしまうのは止めておく。実は一度予習のストリートビューで間伏のシミュレーションは済んでいて、やや寂しく取り付く島の無い漁村であることはわかっているし、この10日間で間伏以外にも海岸を一杯訪れることができるだろうとも思う。
 まあ正直に言えば、ただ単に120m登り返しを1回少なくしたかっただけだ。

 2回の登り返しを経て観音台へ戻り、再び県道162で先へ。この先で戸岐大橋を渡ったら福江はもう近い。さっきから続いている行き止まりのピストン行程は、刻一刻と時間は過ぎているのに行程進行上は効率が悪いように感じられるものの、時を経るなりに位置も進んでいるのだ。
 戸岐大橋までの途中、宮原で「宮原教会」の立て札を発見。さっき半原教会で良い印象があったので、立ち寄ってみた。

 16:20、宮原教会着。ステンドグラスも無い小さく古びた木造の教会であるものの、しかし半原教会同様、地元の方に大切にされている愛情が感じられ、幸せな気分になった。別にキリスト教徒ではない私がこういう教会を訪れて幸せな気分になれるのは、ここ何年か続けている東京初詣サイクリングの、大切にされている小さな神社を訪れて幸せな気分になれるのとよく似ている現象ではないかとも思った。愛するものが美しくあって欲しいという人々の気持ちが愛おしく嬉しいというか。

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 橋の下の漁村に立ち寄ってから戸岐大橋へ。

長崎県五島市戸岐 https://theta360.com/s/iIDjAzuMoUSMxgL6pjHr5NHpg

 大橋の袂に漁協の店舗が現れた。食堂みたいなお店は福江が近いのにやや時間を食いそうで入りづらく、もう1箇所の軽く補給ネタを仕入れられそうなお店は本日休業で、また食料にはありつけなかった。しかし、さっきの唐船ノ浦辺りと違ってこういう店が道端に現れるところに、次第に福江に近づいているのだと感じられる。

長崎県五島市戸岐 戸岐大橋 https://theta360.com/s/qrka4ERCM8W5dgQx5fOVC4qKO

 堂崎へは奥浦湾に沿った海岸際の道。内海の静かな海面、漁村の営みに心が癒される。山影が次第に長くなり始めていて、景色の彫りが深くなり、もともと濃厚で鮮やかな海と緑の色に深みを加えているように思われた。
 16:40、堂崎教会着。ここまでの木造瓦葺きの教会と違い、瓦葺きではあるものの煉瓦造の建物だ。

五島市奥浦町堂崎 堂崎教会 https://theta360.com/s/3NDc7StSLVkJIXOrcJINPf1s0

 堂崎教会は有形文化財だそうで、今日の所は中には入れない。拝観料は払ったものの、建物の前まで行ってあまり居着かずに次へ向かうとする。
 見学後に食べようと思って行きにとりあえず通過したマドレーヌ屋は、帰りには本日の営業終了後だった。またもや何も食べられないのはやや残念ではあるものの、しかしもう17時前、福江まであと10kmちょい。このまま行ってしまえ。思えばそんなに腹が減っているわけじゃなく、ぐいっと水を飲んだらとりあえず満足できる程度の空腹感なのだ。

五島市奥浦町堂崎 https://theta360.com/s/jNsFuR9xOjkmF7JfrkOgvClxA

 16:55、堂崎発。
 奥浦湾からもう1回、最後の半島寄り道で浜泊から大泊へ。南河原では海岸近くの高台にくねくねと道が続く。赤い光で海の島が鮮やかになっていて、空気ももう昼間よりだいぶ涼しくなり始めていた。

長崎県五島市平蔵町南河原 https://theta360.com/s/mFj0ulvev4Zb8HV093cthnDMm

 県道162に戻り、清掃工場、生コン工場の坂を登って下ると、唐突に福江の町に到着。そのままGPSトラックに従い、いきなり住宅地の細道へ。

長崎県五島市福江町 富久屋旅館到着直前 https://theta360.com/s/nteS4CUUL1OahxOJSoYaY1OXA

 17:40、富久屋旅館着。街中の旅館だ。今回の旅では、最終日5/5もお世話になる予定だ。

 書道教室を開いている宿だけあって、館内の案内が全て習字風である。A4サイズの紙に「水が出ます」「男性トイレ」「風呂 男性」などときっちり描かれているのが特徴的だ。あちこちにNHK福井のポスターがやたら貼ってあると思ったら、何とご次男の方がアナウンサーだとのこと。
 夕食は五島名物オンパレードで、〆はオプションのハコフグだった。さかなクンが被っているこの魚、本当に外皮が箱状なのである。料理としてはその箱に骨を取った白身の肉が味噌味で詰められていて、外皮丸ごとアルミホイルで包み焼きになっているという、今まで食べたことも聞いたことも無いものだった。全体的に量がたっぷりで、あれだけ空腹だったのにかなり効いた。

 外は19時になっても全然明るい。やはり東京の18時ぐらいの感覚だ。19時半でもまだ薄明るく、20時にやっと完全に夜になっていた。
 それにしても海も空も緑も濃厚で鮮やかで、静かな風景の中で過ごせた1日だった。明日も晴れ予報だし、この先10連休中の天気予報は、嬉しいことに大体晴れのようだ。29日夕方から曇り、30日5月1日が雨時々曇り程度とのこと。ということは、小値賀島訪問の日が雨か。
 まあしかしこれだけ他が晴れるのだから文句は言えないな。

■■■2019/5/17 ■■■http://takachi.no-ip.com/ ■■■高地 大輔