塩山→(県道38・国道140)窪平→(県道206)塩平 |
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シャッターが開く前の国分寺駅。夜通し遊んだ学生は、眠そうだったりまだ興奮し足りなくて大声を上げてみたりして、コンコースを通り抜ける。物陰にごろ寝した奴が、鞄とラジカセで店開きした中でときどきちょっと寝返りを打ってみたり。
そういう周りのどの団体とも無関係に、黙々と輪行作業を開始。
高尾発はいつもの5:16。塩山着後、しきりに話しかける暇なタクシー運ちゃんの相手をしつつ、自転車を組み立てる。乙女高原、木賊峠、みずがき山荘の地名に一応驚いてくれるのがちょっと嬉しい。まあしかし運ちゃんとしても、毎週日曜の朝は一発驚かないと一日調子が出ないぐらいの、単なる景気付けだろうとも思う。
6:40、塩山発。
窪平の町中から、いつもの杣口林道方面ではなく、鼓川に沿った塩平・焼山峠方面へ足を向ける。
小ぎれいな集落に続く登りは、均一斜度・直登気味で開けた斜面の杣口方面と、まあ似たような傾向だ。
ただ、こっちはやや谷間気味で集落が断続気味なのと、斜度の緩急で雰囲気の変化がある。車もやや少なく、落ち着いた道だ。
そのうちいつの間にか斜度が増し、坂に対して視覚が麻痺してしまっているのに気付いたりする。
北原から先は急に道と谷が狭くなり、鼓川の渓谷が迫る。ごろごろした大きな岩が荒々しい。
カラマツ林の先に唐突に現れた集落の塩平は、狭い谷間をせり上がるように斜面に張り付いている。あまり斜度が緩まないその塩平の集落を抜けると、更に道が狭くなり、焼山林道のゲートが現れた。
森の薄暗い林道と緑の木漏れ陽、もはや沢になった鼓川。ひんやりした空気が気持ちいい。
静かな森は山鳥の声だけが賑やかに響き、早くもつくづく来て良かったと思う。谷を遡ると、広葉樹の森がカラマツに替わった。独特の青味の濃い新緑、高い梢が何とも開放的で、とても楽しい道だ。
つづら折れ連発で更に登ると、ピンクの山ツツジに、まだ花を咲かせた山桜まで登場した。
谷底区間が終わると、近くの山の向こう、南アルプスの青い山肌と残雪の斑がくっきり見え始めた。きょろきょろしていると、見上げる近くの山に道が横切っているのを見つけた。焼山峠の先、乙女高原で合流する水ヶ森林道だろう。
9:10、焼山峠着。峠で合流するクリスタルラインこと荒川林道の写真を撮ろうとして、初めてデジカメの動作がおかしいのに気が付いた。画像記録中のLED点滅が消えないのだ。どうも書き込み時にトラブルが起こっている。
メモリーカードを抜いたり、接点をごしごし擦ってみるが、どうにもならない。カードを抜いて内蔵メモリで撮影すると、何の問題も無く写る。そういえば安さに釣られて、相性問題が多発していたあやし目のカードを買ってしまったんだっけ。してみるとこれはカードトラブルのようだ。
意を決してフォーマットを試しても、もはやフォーマットすらできない。その割にはある時点までまでの写真は残っている。読めるが書き込みできない状態らしい。
一応35mmのGR1も持ってきているが、肝心のフィルムにそう枚数が無い。いや、昔は1週間以上ツーリングに行っても、フィルム1本で済ませていた時代もあったのだ。でも、トラブルに遭遇して気分が一気に盛り下がってしまい、何か今日はもう写真を前向きに撮る気が萎みつつあった。
久しぶりにあまり写真を撮らないのもいいだろう。きっと神様がまた来るようにと言っているのかもしれない。前向きに行こう。
クリスタルラインで乙女高原のキャンプ場へ更に登った後、さっき見えた水ヶ森林道合流点からようやく下りとなる。ここのキャンプ場には、このコースに数少ない水場がある。特に夏場などは重宝するのだ。しかし、水自体は塩ビ管の味がする。
雑木林の山肌をくるっと巻く辺りで周囲は一気に開け、クリスタルラインのハイライトの一つが開始だ。正面には朝日岳から金峰山、瑞牆山へと続く甲信国境の山々が立ちはだかる。稜線が窪んだ辺りが大弛峠だろう。それらの山裾には新緑のカラマツが一面に拡がり、その樹海が下って行く谷間はごつごつの岩山で塞がれている。
毎度のことだが、この景色がこの道に来る大きな理由の一つだ。この景色が標高差約600mに渡って、高さと位置、山の見え方、そして木々の彩りを変えつつ、しばらく続くのである。
しばらく下って、見下ろしていたごつごつ岩山は正面に来た。更に岩場のつづら折れを一目散に下り、10:00、黒平町着。ここからクリスタルラインは御岳林道となり、木賊峠へ再び登り返し開始である。今までの長い下りの冷たい風ですっかり身体が冷えてしまい、全く力が入らないので難儀するのはいつもの通り。
木賊峠は黒平町側から登るのが好きだ。きりきりっと高度を上げた後、何とも山間らしい清らかな雰囲気の、精進川の谷間がしばらく続く。その谷間とは万年閉鎖中の御岳林道との分岐でお別れとなり、池の平林道と名前が変わって道はくるっと折り返し、標高差350mの山腹区間へ向かう。
今まで秋に来ることの多かったこの道だが、紅葉が鮮やかだっただけあり、新緑の美しさもまた鮮やかだ。ただ、麓より季節はかなり遅いようで、緑の勢いは想像していたほどではない。賑やかで瑞々しく鮮やかな、麓の5月下旬の緑を見慣れてしまうと、もう少し染まってしまうような緑の中に身を置きたい気もする。
山腹を登り詰めると、池の平林道は北側斜面の尾根近くに移り、再び甲信国境の山々、拡がるカラマツ大樹海を木々の間に望む。稜線近くだけあって、斜度は山腹区間よりかなり一段落。見下ろす樹海の行く手方面に気を付けて眺めると、木賊平をつづら折れを描いて下ってゆく道を見つけることができた。
11:15、木賊峠着。峠そのものは殺風景で閉鎖的な木々の間の道だが、その少し向こう側に展望台がある。ここから甲府盆地を挟んで真正面に相対する富士山が、空中に浮かんでいるような位置で見えるのである。その空中度と言えば、初めて見たとき、霞でその姿が薄かったのもあり、しばらく空の中を探してしまったほどなのだ。木賊峠は標高約1650m、甲府盆地もたいていの山々も眼下に見下ろす位置である。それなのに、ここよりまだ2000m以上も高い富士山の高さ、山のボリュームは、下界で眺める印象を遙かに越えたものなのだろう。
その大きな富士山の裾野が、今日はだいぶ霞に隠れ始めていた。例によっておにぎりを眺めている間に、地元老人らしいグループも現れた。一人でこの展望を占領するわけにもいかないし、先に進むことにしよう。
木賊峠の下りは、峠から途中までほとんどカラマツの谷間を、通仙峡、本屋釜瀬林道合流点まで標高差約400m。峠下の森のつづら折れで例外的に周囲が開けるのが、さっき眺めた木賊平である。甲信国境の山々と、こちら側の前金峰の山々に囲まれた、擂り鉢状のカラマツ大樹海。一面新緑の柔らかく滑らかな景色の奥に、ごつごつ猛々しく異様な迫力のある瑞牆山が立ちはだかっている。
ここの素晴らしい景色を期待しながら来ても、思わず立ち止まってしまう。
その先はしばらく薄暗かったり頭上ぐらいは開けたりするカラマツの森が続く。本谷川の谷間に降りた辺りで、路面はがたがた荒れ気味のコンクリート舗装になり、ブレーキを握る手がいい加減疲れ始めてもまだ下り続ける。
谷底をまっしぐらに下る途中、もう一度狭い谷の正面に見通しが開け、青空をバックにちょっと遠目の大きな残雪の山肌が登場。八ヶ岳である。
通仙峡からみずがき山荘まで、再び300m強の登り返しだ。金山沢の奇岩、澄んだ流れの脇からいつも一度は立ち寄って蕎麦を食べてみたい金山平の山小屋へ、いかにも山奥の清らかな雰囲気の漂う景色が続く。時々現れる10%の標識が、のろのろでしか進めない理由を納得させたり、今日も完全に坂に対して視覚が麻痺しつつあることを教えてくれる。
谷間区間の楽しい景色に対して、残り約1/3の山腹区間は閉鎖的な森が続き、やや退屈と言えば退屈だ。しかしここまで来てしまえば、あとは時間の問題みたいなものだ。道が下り始めるとすぐに木々の向こうに屋根が見え、12:05、みずがき山荘着。
山荘というだけあり、ここは今までごつごつした異様に逞しい姿を眺めてきた瑞牆山への登山口だ。山荘の実態は、宿泊可能なロッジとレストラン。シーズンともなると、ほんとは登山客がうじゃうじゃやかましい程だが、今日はどういう訳かひっそりと静かである。
前回の訪問時、ここのソフトクリームがこちっと濃厚な味わいで、とても美味しかった。今回もここまでそのソフトを楽しみにしてきたのだが、何とソフトは6月からとのこと。がっかりだが仕方無い。希望を持って前に進もう。
というわけで、再びカラマツの中を一気に下る。
周囲のカラマツがいつの間にか広葉樹林に変わり、下りきると標高は1100m、景色が開けて人里が登場。12:20、谷間を登ってくる農村の上手、黒森に到着だ。ここで振り返ると、見送ってくれるように後ろに聳える瑞牆山の姿を眺めるのがいつも楽しみなのだが、今日は快晴で、過去最上級の瑞牆山を眺めることができた。
この季節毎年、カラマツ樹林帯で大合唱するヒメハルゼミが楽しみなのだが、どういう訳か今回はまだどこにもその声を聞いていない。それが、ここでようやく谷間に響く甲高い大合唱に身を置くことができた。この声に鮮やかな濃い新緑、これだからこの季節の山間は楽しい。
信州峠への登りは基本的に10%連続で、この辺りでは裁けている雰囲気の道だ。周囲は森で閉鎖的なのに広めの道の頭上だけが開けていて、さっきの下りで冷えた身体がしばらくだるいせいもあり、気分的に飽きが来る。途中、斜度が緩くなり多少展望は開ける場所もあるが、全体的にいつも印象はあまり良くない。
12:55、信州峠着。峠も単なる切り通しだ。横断する稜線の登山道が道端から合流し、また山の中へ去って行く。
14時までに信州峠に着けたら、このまま三国峠を遡り、中津川林道へ向かおうと思っていた。この目標に向け、今回はやたらと時間が掛かる水ヶ森林道ではなく、焼山林道経由としたのが効いた。
おにぎりを食べて、そのままとっと下り始める。1999年に初めて訪れたこの信州峠は、その時はまだ荒れ気味舗装の細道だった。麓の高原野菜畑から続いた、開けた畑の中の直登が印象に残っている。それがその後来る度に舗装が進み、前回峠下にほんの少しだけ残っていた旧道は、今回遂に全滅だった。
しかしそれでも、川上村の高原野菜畑を一気に下る一直線区間は、まだまだ楽しませてくれる。
川上村谷間の原には、この辺りにしちゃ大きめのスーパー「NANA」がある。ちょっとした総菜や弁当に困ることはなく、ちょっとここで補給。
13:35、原発。並行する千曲川の橋を渡る度、中学生の頃だったか千曲川という名前に惹かれて読んだ島崎藤村をなんとなく思い出す。当時は受験勉強中だったためか、千曲川の風景描写だけを覚えていて、どろどろの人間関係の狭間の藤村の気持ちまで思いが回らなかったと思う。
千曲川の谷間はしばらくほぼ平坦だと思っていると、畑の拡がっていた谷間は大弛峠へ分岐する秋山辺りからちょっとしたアップダウンが現れ、いつの間にか谷間は狭くなり、正面には三国峠の電波塔が意外なほど近くに現れた。1時間後はあの辺りにいるのである。
いつものコンビニで暇そうな店番のおばさんからおにぎりを仕入れ、14:20、梓山発。
各所でヒメハルゼミの発生が遅いようだが、ここでも例年は耳の中で高周波が響くほどの大合唱なのが、まだ数匹しか鳴いていない。それに、高原野菜畑もまだ黒い土が目立つ。野菜が育っていないようなのだ。
その傾向は森の中でも同じようで、山肌区間が始まっても、木々の芽吹きは明らかに遅い。2〜3週間程度は遅いのではないか。しかし、それでも独特の濃い緑色の芽を吹いたカラマツの森、高い梢の下の開放的な空間、緑色の木漏れ陽は素晴らしい。
意外と入り組んだ山肌に沿った峠道が、最後にカラマツの森の中の2段つづら折れとなる。さっきまでいた川上村の谷間を見渡してから、15:15、三国峠着。
この三国峠は岩場の切り通しが峠となっていて、長野県側は緩やかな広々とした高原、岩の向こうの埼玉県側は荒々しく切り立って落ち込んだ険しい山々が彼方へ延々と続いて行く。狭い切り通しの両側、あまりに違う景色が有名だが、岩場の切り通しの峠それ自体、猛々しい雰囲気が見物だ。
景色が違うだけあり、この峠では天気もあっちとこっちで全然違うのが珍しくないが、今日の三国峠は向こう側も晴天のようだ。岩の切れ間に切り取られたように青空が、そしてその下にちょこんと頭を出した奥秩父の山々が、すごくクリアに見えた。
峠の向こうへ行ってみると、青空の下、猛々しくそそり立つ奥秩父の岩山が、果たして息を呑むど迫力の大展望である。もう夕方でそろそろ日差しが赤くなっていて、深山のもともと濃い色の新緑が最高に鮮やかになっていた。
下り始めると、意外なほど車とバイクが少ないのが有り難い。もう夕方の時間帯になっているため、新たにこの道に入り込むような人も少ないのだろう。
垂直に近いような切り立った岩山に張り付いた道からは、緑に埋もれそうな谷底がよく見える。まあまだ新緑の季節だし、ましてや今年の例に漏れず、緑のボリュームは予想より少し少ないような気もする。しかし、今日の晴天、そして夕方の光で鮮やかな緑は、その分を帳消しにしてくれていた。緑の山肌、緑の谷間、そして緑に包まれる道。つくづく残念なのはSDカードトラブルだ。残り少ないGRD本体メモリと、1本しかフィルムを持ってきていないGR1だけで写真を撮らないといけないのである。
岩山区間からつづら折れで一気に高度を下げ、谷の奥でくるっと折り返した道は谷底の中津川に沿って更に下り続ける。切り立った高い山の間、狭く深い谷間の道、トンネルのような森が続く。
緑色の光に包まれて続く静かなダート。車が来ない幸せをつくづく感じるが、まあそれでも谷底区間に入ってからは、さっきよりはだいぶ車は増えてきた。こういう渓谷に家族で連れていってもらえる子供は幸せだろう。
16:10、王冠着。王冠の少し先から舗装がが復活、旧大滝村村営のこまどり荘から谷間が少しだけ拡がって、中津川の集落を抜けると、ようやく普通の県道並に片側1車線ずつの道となる。
何だかヒーロー物の秘密基地のような、八丁峠方面へ岩山を穿つコンクリート造分岐トンネルを見送り、中津峡をトンネルでばんばん抜け、中双里を通過。
唐突に真新しい橋が現れた。その橋の向こうに、やはり新しめのトンネルが口を開けていた。一方、深い谷間の底を這うような旧道入口には、かなり頑丈そうな、それっぽいマニアが入る気を無くしそうなバリケードが建っている。このまま新トンネル方面へ進むと、ほぼ平坦で雁坂トンネルから降りてくる国道140に合流できるに違いない。今まで中津峡から国道140へは、ある程度下ってから再び激坂で登り返させられていたため、仲間内では評判が悪かったのだ。
新道はやはり入り組んだ山肌をトンネルでばんばん抜ける。さすがに全く平坦というわけではなく、ほんの少し登り返しはあったが、ほぼ期待通りに国道140に合流。そのままお馴染みループ橋を一気に下り、17:20、三峰口着。
西武秩父着は17:55、特急の時刻が18:26なので、程良く余裕がある。18時半前だとまだ駅構内の仲見世飲食店もけっこう開いていて、今回は蕎麦屋をチョイス。
記 2006.6/11