夜叉神峠

波高島

上沢

早川

大原野

転付峠

新倉

奈良田

開運トンネル

荒川

広河原

野呂川出会

2003.6/7 南アルプス林道再訪

波高島→(国道300)上沢
→(県道37)広河原
→(南アルプス林道・野呂川林道)野呂川出会
→(野呂川林道・南アルプス林道)広河原
→(県道37)大原野
104km


 いつもの高尾5:16発の中央線を乗り継いで着いた甲府盆地は、どんよりした曇り。それが、身延線で富士川沿いに南下するうちに空が明るくなり、波高島では薄曇りよりもう少し雲が多い感じの晴れっぽい曇りになった。激晴れだった去年の北沢峠アタックの時もこんな感じだったはずだ。今日もまたあの濃厚な青空と緑を見ることができるだろうか。

 9:06、波高島に身延線の甲府行き2両編成が到着し、出発していった。ところが、この列車で到着するはずのCASATIさんの姿が無い。何かあったなと思い、駅前の公衆電話でCASATIさんに連絡すると、富士で寝過ごし、波高島着は1時間半後の10:30とのこと。さすがにそれだと南アルプス林道への往復は無理だろう。
 仕方ないので一人で出発。

 しばらく早川の谷を遡る。河原から急に立ち上がる山々の緑が、相変わらず勢い良く生い茂っている。早川村の中心部で山伏への分岐を過ぎると、交通量はがくっと減るのもいつも通り。
 高い山の間、渓谷沿いに緑をくぐり抜け、断続する小さな集落をたどる道は、何か谷間の1本道、生活幹線という風情がある。高い山に挟まれてはいるが、大きな谷の風景は開放的で、先へ続く谷間を進む道に「南アルプス街道」という名前がふさわしい。

 今日の宿「ヘルシー美里」がある大原野では高い山に挟まれて、僅かな拡がりではあるものの、多少まとまった平地が拡がる。石垣で囲まれた小さな田圃で、農家の方が仕事をしている風景は何とも美しい。谷には畑や集落、「野鳥の里」など、いくつかの観光施設もある。「ヘルシー美里」が、ちょっと奥まった土手に立っているのも確認。田舎の学校風の、私好みの佇まいである。
 今のところはそのまま通り過ぎ、平地の上流側集落の新倉を過ぎると、谷が急に狭くなる。途中では明日向かう転付峠への分岐も確認。そういえば前回こんな分岐を確かに眺めていた。
 切り立った山が迫り、谷間の早川も狭くなり、だいぶ山深い印象になってきた道を更に上流方面へ。新しいトンネルを抜けて再び谷間が拡がると、絵の具のような水色の奈良田湖だ。

 奈良田の先で、いよいよ通行止め区間が始まる。
 発電所の前には、去年よりも遙かに多くのワゴン車が停まっている。釣人かハイカーか、みんなここから先へ入って行くのだろう。とりあえず辺りに人気はなく、「それではワタクシも」などと思いながら、11:45、開運トンネルのゲート到着。
 すると、なんと隙間部分にまで両側とも高さ1.5m弱ぐらいの柵が設けられていた!岩面の補強モルタルに鉄筋が打ち込まれ、もう片側はフェンスに溶接されている。唖然。
 一瞬、ここで引き返して温泉にでも入るかと思った。が、でも、車を置いて侵入する人は後を絶たないようでもある。とりあえず自転車を持ち上げてフェンスをクリア。柵の向こう側に入ると、何だかトンネルの暗闇の奥、小さく見える向こうの出口へ続くあっちがわの世界に踏み込んだような気がした。

 トンネルを抜けると、同じような早川の谷ではあるのだが、鳥のさえずりのバックグラウンドに、静かなノイズというか、何か無数の生命のざわめきみたいな音が聞けるように思えるのが面白い。
 車もバイクもいない緑深い道は記憶通りで、相変わらず素晴らしい。時々ハイカーや釣人とすれ違うのも楽しい。比較的だらだらした登りが続き、周囲の山々はますます高くなっていった。

 舗装路面の状態それ自体は良好だが、普段通行が無いためか、時々木の枝が落ちている。こういう木の枝はホイールに巻き込みやすいが、どうかすると太い枝がスポークに引っかかったまま回転し、それがガードステイにも引っかかり、最終的にガードがひしゃげる場合がある。
 これが今回起こってしまった。ちょうど登りで速度が落ちていたときだったが、前に投げ出されて転倒。幸いわずかな擦過傷で済んだが、前ガードが完全に座屈してしまった。のみならず、力技で強引に修理中、3cmぐらいのタイヤの傷に気が付いた。今日の行程では記憶がないので、あるいは先々週、大弛峠のガレ場でやられたのかもしれない。あそこもなかなか鋭い石が落ちている箇所がある。
 幸い縫い目は切れていないようだが、今日は爆弾を抱えた行程になる、と思った。

 切り立った斜面に張り付いた道は、渓谷を次第に遡ってゆく。真っ暗なトンネルがいくつか連続した後、ちょっとした谷の広がりが現れた。荒川との分岐である。ここには発電所があり、この道の数少ないまとまった沢との分岐でもある。
 ここを過ぎると、道の斜度は今までよりも厳しくなるが、ただ単に今までと同じような谷が、谷間全体で標高を上げているだけなので、あまり雰囲気は変わらない。
 谷の正面、壁のように続いていた高い山が近づき、その上の方に夜叉神方面からの南アルプス林道が頼りなく張り付いているのが見えてきた。今日もこの道を進むと、あんな高い道と合流してしまうのである。見上げる山腹の緑の中に見え隠れする道は、しかしながら崩壊やら、明らかに崩落してそうな箇所もある。かなりズタズタらしい。今年の夜叉神方面は、しばらく通行止めなのではないか。

 やがて道がダートに変わると、道が川であったかのように砂利が深い。去年乗れた場所でも早々と押しが続く。一部では土砂崩れの撤去作業で、数10cmの隙間を通り抜けて行くような箇所もある。いつこうなったのかはわからないが、最近どこへ行っても感じる、昨冬の雪深さと無関係ではないだろう。

 13:30、広河原着。
 広河原の例の鉄橋は、分厚い鉄製の塀が付けられていて、さっきの開運トンネルゲートと違ってとてもじゃないが自転車では渡れない。しょうがないので、今回も国民宿舎から吊り橋を渡る。
 吊り橋の上からは、ちらっと南アルプス林道の広河原ゲートと案内所が見える。去年来て、無人であることは想像できたので、無人のゲート詰め所と案内所を観察する余裕があった。橋を渡りきり、いよいよ南アルプス林道に合流したところで後ろを振り返ると、どきっとするような鮮明さで残雪の北岳の姿が見えた。

 カラマツと広葉樹の明るい緑の中を少し登り、早邦建設の林道補修仮設事務所?の水場を過ぎ、少し坂が落ち着いた辺りから、野呂川の渓谷を見渡す開けた道となる。激晴れで太陽光線がまぶしかった去年ほどではないが、瑞々しい緑と荒々しい岩山が迫り、少し位置が変わると共に刻一刻と変わる眺めに、今日も来て良かったと思わせられる。
 途中で、上の方から下ってきた1台のMTBとすれ違う。あるいは夜叉神のゲートを夜明けにくぐり、北沢峠で折り返してきたのかもしれない。似たような人がいるのだ、とも思う。

   

 林道から眺める南アルプスの白黒の斑に、去年よりも白い残雪が多い。やはり雪が多かった影響だろう。その稜線にはどんよりと不安な色の雲が溜まっている。広河原の頭上では青空が見えていたのに。
 尾根を回り込んだ道が下り始めると、北沢と野呂川の合流点だ。今日はここを野呂川の谷へ進む。前面通行止めの看板を眺め、多少砂利が深い坂道を再び登り始める。

 通行が無いためか、道はいきなり荒れ出した。砂利が深い上に、細かい石までエッジが立っている。まあそれでも通行できないレベルではないが、ちょっと先行きは不安だ。
 500mも進まないうちに尾根を巻いたところで、何と大きな岩に倒木が、見事に道を塞いでいる。高さは1.5mぐらいだが、岩の一つ一つがそれほど大きなわけではなく、自転車を担げばとりあえず通過できそうに思えた。しかしこの道には、遅かれ速かれいずれこんな感じで退却させられることになるのかもしれない。
 もう14:50。本日のタイムリミット15:00にあと僅かだ。それに空を見上げると、北岳方面からはさっきの黒雲が次第に頭上に拡がっている。
 この辺が潮時かもしれない。退却決定。

 引き返して北沢を渡る。さっきの登り返しにさしかかると、前輪がスローパンクしているようだ。タイヤ表面を調べてみると、小さい破片ではあったが、鋭い岩がタイヤに刺さって、裏側に貫通していた。
 トラブルの多い日である。誰も来ない路上に自転車を横倒しにして、予備チューブへの交換作業を開始する。薄曇りの空の中、次第に増えるどす黒い雲が心配だが、野呂川の渓谷から北岳へと続く贅沢な風景を眺めていると、何かあまり急いでここを去る気にならない。

 修理が完了して、今まで登ってきた道を引き返す。だいぶ休んだのと太陽が雲の中に引っ込んだので、なかなか寒い。
 一度体験してみたかった南アルプス林道山梨側の下りは、想像していた通り、登りに見てきた絶景がダイナミックに動いて過ぎてゆく、なかなか素晴らしい体験である。路面が荒れ気味なので、多少ゆっくり目に下る。

 広河原、国民宿舎、ダート区間と来た道を逆戻り。荒川の発電所を過ぎて、一番手強い暗闇カーブトンネル×2本に長暗湿トンネルを抜け、舗装区間に入って少しのところでCASATIさんに遭遇。
 開運トンネルのゲートを2人で越えると、ようやくこっちの世界に戻ってきた気になった。

 ヘルシー美里着は17:10。鍵の閉まった部屋の前で少し待つと、温泉に入り終えたすずさんが帰ってきた。
 18:00の夕食まで15分ぐらいあったので、さらっと風呂に入り、夕食・2度目の風呂の後、部屋に戻ると大雨が降り出した。雷が暗闇の中でぴかぴか光っていたが、近所に落雷したときには、建物が地響きでちょっと揺れた。こんなので明日の転付峠は大丈夫だろうか。

記 2003.6/14

Last Update 2004.6/27
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